③愛しのマイ・フェア・レディ~一夜限りの恋人~
「や、やったあ、それじゃあ、私の勝ち!」
 釈然としないまま、燈子は右手の拳を上げた。彼はそれを見守るように見つめている。

 気がつけば2人は、人気のない小さな都市公園に足を踏み入れていた。

「じゃあこれは…君の戦利品だ」

 彼は、胸ポケットから小さな皮のアクセサリー袋を取り出した。

「え、そ、そんな!これ以上」
 何も貰えません、
 言おうとした言葉は、重ねるように封じられた。
 
「着けてあげる。目を閉じて?」

 言い方柔らかだが、有無を言わせないその響きに、燈子は思わずギュッ瞳を閉じた。

 肩に下ろした髪が、耳元からそっと持上がり、首の後ろで、彼の指が器用に動いているのが解ると、何とも言えない擽ったい気分になった。

「さ、出来たよ」
 
 首の後ろから指の感覚が離れ、名残を惜しむように燈子がうっすら瞳を開けた、その時だった。

「燈子」
「ヒトシさ……んっ……」

 ふいに抱き寄せられたかと思うと、唇同士が重なった。

 猫が喧嘩でもしていたのか、街路樹の繁みから争うような威嚇音と、バキバキッと若木の折れる音がした。

 燈子の感覚が、研ぎ澄まされていく。

 彼の舌が優しく唇をなぞっている。
 小さく開いた処から、舌先を挿し入れ、燈子のそれを転がすように、ごく浅く絡ませる。
 
 なされるがままにそれを受け入れながら、燈子は内心驚いていた。

 う、嘘みたい。
 私、社長とキスしてる。

 そう言えば…
 最後に男の人とキスしたのって一年も前。しかも相手、大神さんだ。

 今でもハッキリと覚えている、彼の半ば強引な、情欲を煽るそれとはまた違って。
 もっと余裕のある
 相手の様子を窺いながら、望むままに欲しがる程度快楽を与えてくる、例えるなら麻薬のような…

 ダメだ、これは…身も心も流される__
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