彼女のことは俺が守る【完全版】
 奥に行くにしたがって部屋が並んでおり、篠崎海の寝室、ゲストルームと並んでいる。そして、篠崎海の部屋の真横は何も置いてない部屋があった。南側の部屋は大きな窓が取ってあり、レースのカーテンだけが掛かっている。部屋の広さは私が住んでいたマンションの部屋を全部合わせたものの倍はある。


「ここは里桜の部屋になる。元々、使ってなかった部屋だから気にせず使っていい。中から鍵も掛かるから安心だろ。ここに里桜の好きな家具やカーテンを入れたらいい」


「広すぎます」


「そんなこと気にする必要ないよ。里桜は里桜の生活をここですればいい。俺もこういう職業だから、時間は不規則だから、一緒に暮らしているからと言って里桜が合わせる必要はない。それが偽装結婚の約束だよ」


 篠崎さんの言葉で私は『偽装結婚』を思い出す。優斗に振られた苦しさから私は篠崎海の手を取ったのは間違いかもしれないけど、今の私はこうでもしないと自分を支えられない。泣き疲れるくらいに泣いたのに…私はまだ優斗のことが忘れられない。


「本気で偽装結婚をするのですか?」


「勿論だよ。里桜はあの男を見返すために。そして、俺は加熱しすぎたファンの勢いを回避するための契約だよ」


「わかりました」


 私にはもう篠崎さんの申し出を拒否することは出来そうもなかった。狡い考えだけど、今の私をあの部屋から連れ出してくれるのは目の前にいる人しかいない。たった二回しか会ってない人と結婚なんて昨日までの私なら考えられない。でも、今、私は篠崎さんの手を取ろうとしている。


 今は一人にはなりたくなかった。
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