彼女のことは俺が守る【完全版】
「もう一枚ですか?」


 優斗の結婚式で着るドレスは決まったのに、もう一枚と雅さんは言う。どうしてもう一枚のドレスが必要なのか分からなかった。


「そう。これは篠崎くんと言うよりは高取さんから頼まれているものなの。何かあった時に着る物をね」


「何かあった時?」


「今のところない予定だけど、記者会見とかあった時とか、人前に出ないといけない時にね。結婚式とは違うから上品で清楚な印象の物が必要なの。里桜ちゃんはそのままでも可愛いし、清楚なイメージはあるけど、相手が篠崎くんとなると、横にいる女性が着ているものはそれなりでないと彼のイメージを損なうの」


 記者会見。


 その言葉に篠崎海と偽装とは言え、結婚するという意味を改めて思い知ったような気がしていた。私の着るもの一つで篠崎海のイメージまで損なうとなると私は雅さんの言うとおりにしないといけないと思った。


まだ、私はその覚悟が出来てないのに、逃げ道を失っているような気がする。


 篠崎海は本当に私が相手でいいのだろうか?そんなことを思いながら私は自分の左手の薬指の光を見つめていたのだった。


 雅さんの頑張りで必要でない予定の『何かあった時のドレス』も決めると仕事をやりきったような気がしていた。


「さてと、買い忘れはないかな。時間が結構経っているから急ぎましょ。篠崎くんに会う前にもう一仕事あるのよ」


 そう言って雅さんが私を連れてきたのは都心でも有名な高級ホテルの一室だった。そこにはさっき買ったばかりのワンピースが用意され、それに合うバッグも靴も用意されていた。


「さ、これから里桜ちゃんを可愛くしてあげる」


 そう言って雅さんは鏡越しにウインクしたのだった。
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