『ありがと、マユちゃん』



その言葉とともに見せられた彼の優しい笑みは、いつものからかうようなものとは違うもの。

あたたかさが、溢れていた笑顔だった。



その表情にどうしてかこの心は音をたてて、全身を熱くさせる。

ときめく、そう言葉に表すのが一番近いと思う。



その感覚が、少し悔しい。








「はい、桐生です。あぁ、どうも。いつもお世話になっております」



外を吹く風が寒さを増す、ある日の昼間。

いつものように仕事に追われる合間に、私は社長室で花瓶に花を飾っていた。



その一方で、桐生社長はデスクに寄りかかるようにして立ったまま、仕事用のスマートフォンを手に電話をしている。

相手は取引先なのだろう。口先では丁寧な挨拶をしながらも、視線はデスクの上に置いてある手元のタブレットに夢中だ。女性との電話だったら、どんな作業も手を止めて会話に励むと思う。



そう思いちら、とタブレットの画面をのぞけば画面に表示されているのはテトリス。

テトリスをしながら取引先と電話なんて……ゲームをするなと叱るべきか、器用ですねと感心するべきか。



どちらにせよ呆れた気持ちでそのタブレットのホーム画面を押してゲームを中断させ、機器ごと奪うと、桐生社長は『あー!』と悲しそうに手を伸ばす。

けれどその間も、彼は「えぇ、はい」と普通に会話を続けている。本当に器用な人だ。