◆ ◆ ◆


朝日の存在は確認できるものの、まだ辺りには、ほの暗さが残っている。

カメラの薄い黒フィルムを一枚被せたような明度の中、軒を連ねる住宅はみなその壁色を同じくし、個性を潜めている。

翌日。時刻は午前6時。

神崎は、とある一軒家の付近に車を停め、その車中で待機していた。

とある一軒家とは、真由美の自宅だった。

そしてなぜこんな早朝に、昨夜来たばかりの場所に再来しているのかというと……目的は一つ。

通勤でそろそろ家から出てくるであろう真由美を、拾っていくためだ。

ふう、と息を吐き、神崎は肘から先をハンドルにもたれさせ、前傾姿勢をとる。

そして思う。自分は一体どうして、こんなことをしているのだろうか……と。

事の起こりは、昨晩、真由美を自宅に送り届けた際に、真由美の父親と交わした会話だった。


『……先生。少しお話よろしいですか』


完全に裏社会の顔をしている真由美の父親が、そう、思いつめたように切り出してくるものだから、神崎は一瞬、何事かと構えてしまった。

しかし、真由美父が続けたのは、何てことのない、自分の娘を心配するがゆえの言葉だった。


『娘は……職場で迷惑をおかけしていませんでしょうか』


しっかり働けているかという問いかけ。同僚たちとうまくやれているかということ。

不愛想で勘違いされやすいが、本当は心の優しい子だということ。

仕事のことでいろいろ悩んでいるようだが、心配をかけまいとしているのか、親である自分たちにはあまり相談してくれないこと。