リセットボタンの妖精と
第3章 妖精たちの知る自分
<あれれ??言ってませんでしたっけ?>
女の子は俺に聞いてきた。
「え?」
<ごめんなさい。私たちは龍様のことは何でも知っていると伝えるはずだったのですが、遅れました。>
「え?は??」
❮まぁ、これが僕たちが知ってること。❯
そう言って男の子から資料を渡された。
資料は辞書のように分厚かった。だから、要約するとこんな感じだな。





〈関口 龍〉についての資料

1982年 9月 20日 午後8時39分 01.35秒
体重2951.6g 身長 48.7cm で誕生。
関口龍の母親である(旧姓 滝沢)美妃は、関口龍の父親にあたる人物の(関口)誠一郎と1979年5月7日に婚約。5月13日に結婚、後に、5月18日にめでたく式を挙げた。その後、2年間の幸せな結婚生活は妊娠によって幕を閉じた。
そのことを知った美紀の母、滝沢 敬子と父、滝沢 元義は『お腹の中にいる子を産みなさい。』『大丈夫』『私たちがついている』など励ましの言葉を美紀に言った。その言葉に背中を押されたのか美紀はお腹の中の子を産もうと決意した。
美紀はあまり母たちに迷惑をかけられないと思い、4月6日にマンションへ引っ越した。特に何もなかった日常が変わったのは5月18日だった。美紀にとっての記念の日に元夫 誠一郎に出会う。誠一郎は美紀のことをあまり覚えていなかった。
あの後、誠一郎は結婚詐欺師という悪魔に変わってしまっていた。
美紀はそのことを知ってとても悲しんだ。
その後、龍は問題なく産まれていた。元気な男の子として。
母親の美紀は2015年現在は元気に暮らしている。誠一郎は1987年に他界。葬式は身内だけでやった。その際、美紀も呼ばれていたが、行かなかった。いや、行けなかった。美紀の母である滝沢 敬子(祖母)が、病気にかかったと聞き、病院へ向かっていたため行きたくても行くことなんて出来ないだろう。実の母が病気にかかったと知ってしまい、それに加え、死も近いと知ってしまったのだから…。敬子は、美紀が病院について嬉しそうに微笑んだ。その顔は嬉しそうで、でもどこか悲しみも感じ取れる表情だった。まるで、もうさよならだけど最後にあなたを見れてよかったというような顔だった。そんな顔を見て美紀もそう感じていただろう。美紀は母を見て龍の手を強くにぎった。
敬子は、身内が集まったのを確認して『ありがとうね』と一言だけ言い残して眠るように亡くなった。龍はまだ5歳でよくわからなかったようだった。美紀は母が眠って起きなくなると『お母さんっ!お母さんっ!!………。どうして、どうしてっ!』と言いながらまだ幼い子供のように泣きじゃくった。身内や担当医、看護師や龍がいるにも関わらずに。そんな美紀を見ていた龍は美紀を慰めようと『ママぁ。よちよち。』と言って頭をなでてあげていた―。

龍は、1982年に誕生して2年後、1984年に立てるようになった所を美紀、敬子、元義がビデオにおさめている。1983年から1988年まで保育園に入っていた。その後、小学校へ入学。1~4年までは普通に過ごせていたが、5年の時に来た転入生 立川 蒼汰に父親がいないことについてからかわれ、2学期の間いじめを受けていた。その事を美妃に話すことも出来ず、一人で抱え込んでいたところを幼馴染みの 安達 華音に助けられる。華音は当時、龍に恋心を寄せていた模様で密かに龍も惹かれていっていた。その事には一切気づかない2人はそのまま6年生へと進級。6年になった時、華音は両親の離婚によって転校することとなった。だが、離婚のことは勿論、誰にも言わなかった。誰にも言えなかったのだろう。でも、龍だけには本当の理由を話そうとしていたというのは紛れもない事実である。華音は毎晩、龍宛に手紙をひたすら書いていた。そして事実を伝えると同時に助けを求めようとしていたのだろう。ついに転校する日、華音の手紙が龍に届くことはなく、龍は今もまだそのことを知らないまま生きている。龍には知る権利があるのではないだろうか。そう思った。
中学、高校では特に報告するべきことはなかった。強いていうなら、友達に関してだ。中学、高校ではなぜか友達が減っていっていた。それでも、友達でいてくれたのは小学生の頃にいじめてきた立川 蒼汰だった。蒼汰は、龍と意気投合。それから2人はいつしか親友まで発展していた。
大人になった今でも関わりは多少あるようだ。






「す、すごいな。」
俺は驚いた。というか、すごいとしか言いようがなかった。本人も覚えていない、知らないこともこいつらは知っていたからだ。
その日は疲れていたからかよく眠れた。
次の日、俺は図書館へ行った。妖精について詳しく知りたいと思ったからだ。
妖精について調べてみたが馬鹿な俺にはよくわからなかった。
でも、妖精は『200歳とかなんだぞー』だとか『年をとらないんだよー』だとかなら聞いたことはあった。俺は思った。直接聞いた方が早いだろう。
「聞いていいか?」
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