姉弟ごっこ
姉弟ごっこ
まさか、本当に。

「そんじゃあ今日から世話になるな、ねぇちゃん」

本当に来るとは、思ってもみなかったんだ。

「俺、こっちの個室を使っていいんだろ?」

リビングで棒立ちする私にお構いなしに、哲史(さとし)は自分の荷物をどんどん運び込む。
キャリーバッグ、布団、そしてベンチ。
て、へ?

「べ、ベンチ!?」

目を丸くして叫んだ私に、哲史はとっても頼もしげな顔で言った。「そ。俺が作ったんだ!」

室内に、ベンチ?
公園でよく見掛ける、二人がけの木製のベンチ。

「これって、外に置くやつなんじゃないの?」

腕を組んで訝しげに見つめる私の前を、哲史は「よっこいせ」抱きかかえるようにして大切そうにそのベンチをリビングに運んだ。

「悪ぃな、荷物がちょっくら多くて」
「いやいやいや、私の話、聞いてる?」

実家のお母さんから電話があったのは三日前。

ルームシェアしていた芽衣子が結婚して、この部屋を出ていったのは二週間前。ひとりで住むには広すぎるし、引っ越そうかなと思ってた。
けど引っ越し費用って結構ばかにならないんだよねと、芽衣子の結婚式に一緒に出席したお母さんに私は愚痴った。

それからしばらくして、仕事が忙しくなって引っ越しの件はすっかり後回しになっていた、三日前。

『さっちゃんがね、芽衣子ちゃんが出ていった部屋を借りたいんだって』

電話口でなんてことなく、業務連絡のようにお母さんは言った。
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