絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅴ

1月4日 慎重に慎重を重ねた電話

1月4日

「こんばんわ……、今日はどうでした?」

 今まで、愛に電話をかけたことのない俺が、それでもこうして榊医師に毎晩電話をかけているのが自分でも不思議なくらいだ。

 あの、愛に向けていた強い嫉妬や高いプライドなどは一気になくなり、今更だがようやく素直に向き合えるようになった。

 今……本当に今更だが。

『落ち着いていました。昨日よりも、一段と元気になっているような気がします。今日は特に、宮下さんが見舞いに来られていたようで。仕事に復帰したいと話していました』

「仕事に……」

『それはいくらなんでも早いと思うし、まず、身の周りのことだけでも5年の空間を受け入れる必要があります。それに、元に戻る可能性もあるので、一概に急いではいけない』

「いつ、会えますか?」

 宮下や四対が会っているなか、自分だけが会えないというはそろそろ我慢の限界だ。

『……次に巽さんの予定が合う時にしましょうか……』

「今からでも大丈夫です」

『いえ、あなたに会う前には彼女に、恋人が会いに来ると説明しておいた方が良いと思います。今まで見舞いに来られた方の中で、記憶になかったのは四対さんだけでしたが、四対さんは随分ショックを受けていたようでした。

 なので、あらかじめ愛にその話をして、心の準備をした上でお会いになられた方がお互いすんなりいく気がします』

 思いがけない提案に「すぐにでも」と促す。

『明日、話してみましょう。その上で彼女と日にちを決めます。心の準備が必要かもしれないし、すぐにでも会いたいと言うかもしれない』

「……時間の都合はつけます」

『分かりました。では、また必要な場合はご連絡します』

「こちらこそ……明日の夜には必ずご連絡します」
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