顔も知らない相手

♯07


返信に気づき早く確認したいという気持ちになるがチャイムは待ってくれなかった。
次の授業は怖い英語の先生で携帯なんて使ってることがバレたら1週間は没収されて戻ってこないだろう。
ここは一旦鞄にしまい休み時間に見ることにする。
授業中もなんて返ってきているのか気になって仕方が無かった。

そして授業が終わり先生が教室から出るのを確認してから鞄から携帯を出した。

『テンション高いなww
どーしたん?なんかいいことでもあった?』

あ・・・。
思ってたより普通の返しで安心した。

「ね?だから別に変なこと書いてへんから大丈夫って言うたやろ?」
いつの間にか携帯を覗き込んでいた冬華がウインクをしながらそう言った。
ほんと他人事だと思って…。
そもそも誰のせいでこんなことになったと思ってるんだ。
「これで会話もできるしよかったな」
冬華はそれだけ言い残して帰る準備を始めた。
そっか、メール送るのに戸惑ってたけどこれで話せるんだ。
なんて返そうか考えながら私も帰る支度をする。

「冬華~部活行こう」
SHRも終わり挨拶をすると数分もしないうちにみんな部活やら帰るやらで教室は人が少なくなる。
私たちも今日は部活の日なので移動することにする。
部室は4階にあり文化部の部室が集まっている。
端から2番目に位置されているのがデジタル写真部である。
主に活動は撮りたいものを撮りたい時に撮りたいだけ撮るというなんともざっくりとした内容である。
しかしこんな写真部にも忙しい時期がある。
それは学校行事の時だ。
行事の際に写真部が生徒や行事の様子を撮るというのがこの部活を作るときの条件として加えられているのだ。
そんな時は慌ただしくいろんな場所に行ってシャッターを切らねばならないのだが、そうでなければゆったりとして実にゆるい活動しかしていない。
なんせ設立したのは最近で歴史なんて全くなく私たち1年が作ったので先輩後輩なんて基準もほとんどない。
顧問の先生には当時どこにも属していなくこれまたゆるい優しい先生を探していたとき目に付いたワンちゃん先生にお願いした。
しかしそれが間違いだったのかもしれない。
女子から多大な支持を得るワンちゃん先生が顧問となればワンちゃん先生目当ての女子がわんさか入部する事態になるのだ。
しかし今ではそのファンで入ってきた女子部員も落ち着き部員は10人ほどと小規模になっている。
その経緯はまた説明するとして…。

「いや~今日はなに撮ろかな~」
冬華は入口から一番遠い窓際の席に腰掛けた。
私はその隣に座るのが決まりになっている。
基本参加してもしなくても気分で活動している部活なので部員全員が揃うのは学校行事ぐらいだ。
今日も私たちが1番乗りで恐らく2~3人きたら多い方だろう。
とりあえずデジカメを手に取って今まで撮ったデータを見ながら話をする。
「これ部活設立時の写真やな」
私が冬華にカメラを渡すと最近のことだが二人で懐かしむように当時を思い出す。
「設立すんの案外しんどかったよなー設立理由とかめちゃくちゃ考えたし」
「ワタクシ共が考えるものとしてデジタル写真部とは学校行事等でさまざまな生徒の姿を記録し…」
「いや、まだそんなん覚えとったんww堅苦しい言葉で固めた設立理由」
冬華がお腹を抱え、その時2人で必死に考えた時を思い出し笑い出す。

ガラガラ…
2人で話をしていると急に教室のドアが開いた。
入ってきたのは顧問のワンちゃん先生だ。
「よぉ!2人とも早いなー」
いつもの爽やかな笑顔を浮かべて入ってくると部室に置いてある資料に手を付ける。
「いっつも先生不在なのに今日は来たんですね」
冬華がまたいつものように先生につっかかる。
ワンちゃん先生はそんなこと気にしていないかのように資料に目を通しながら冬華の皮肉を聞き流す。
「んー今日も資料取りに来ただけやからすぐ職員室戻るよ。君たちも話してばかりでなかなか活動しないしね」
ワンちゃん先生は仕返しとばかりに嫌味を交えて返す。
冬華が悔しそうな表情を浮かべるとワンちゃん先生は小さく微笑み教室から出て行った。

「冬華ってワンちゃん先生によく噛み付いてるやんな~」
ニタっと笑いながら問いかけるといつもの端然とした姿ではなく俯いている姿が見えた。
しかしその姿も気のせいかと思うほど一瞬で元に戻ってしまった。
少し思うところがあったがそれはまた今度問い詰めることにしよう。
「そんなことないよ。ほらさっさと写真撮ろ。活動してへんとか言われんの腹立つしさ」
そういって冬華はデジカメを片手に席を立った。
そのあとに続いて私もデジカメを持って席を離れる。

写真を撮りながら翔に返信する言葉を探して頭の中で構成する。
『良い事って言うか…
今日は久々の部活やったから楽しみでw』
こんだけ考えてなんともシンプルで他人からしたらほんとどうでもいい情報だなと感じながら送信した。
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