メルヘン・メンヘラ
僕がそもそもなぜ、今日、大雨の中登校したかというと、仁に呼ばれたからという理由だけである。

夜桜仁。
名前がかっこよすぎることもあるが、それ以上に、人間としてかっこいい。
天才、鬼才というレベルだ。

といっても勉強はほとんどできない。

彼ができるのは音楽、エレキギターである。

かくかくしかじかで彼のバンドに誘われた僕は、ピアノ担当という位置にいるんだけど、まあ、その練習で今日、呼び出された。

バンドには賢哉というドラマーと、虹というベーシストがいるんだが、それは後日説明するとして、まずは、仁の話である。

夜桜仁。
AB型。
典型的な唯我独尊タイプで、いまいち何を考えているのか読めない部分がある。
約束を破ると、超怒る。

というわけで、僕は眠い目をこすりながら朝、学校に来た。
真面目か、って突っ込まれそうなところだけど、言われるがままに来ただけだから、真面目でも何でもない。

呼び出された理由は簡単で、バンドの事についてである。
なんと、新メンバーを見つけたそうだ。

現在、ボーカルがいない僕たちにとっては朗報なのだが、なぜか仁は、僕を含め賢哉にも虹にも紹介してくれなかった。
ようやく紹介してくれるから、少しばかり期待がないでもない。

僕が教室に入ると、すでに、仁も賢哉も、虹までいた。
そしてなぜか、橋本もいた。

「雅は遅刻か。相変わらずだな。」
と仁は何事もないように話しているが、僕はまだ、現状がつかめていない。
いや、現実から目をそらそうと必死に努力している。

虹は妙ににやにやして、嬉しそうだ。
いやな予感しかしない。

「雅。この子、知ってるでしょ。」
なんでそんなに満面の笑みを浮かべているんだ?

「ああ。D組の橋本京さんでしょ?」

今気が付いたのだが、仁、虹、賢哉は座っているのに、橋本は立ったままだ。
細かく言うと、仁は机の上に体育ずわりしているが。

「やっぱり知ってるんだ。」
と虹。

そして、僕のほうに近づいて耳打ちをした。
「この子、うちのボーカルになる子なんだけどさ。雅、屋上で橋本さんと話をするんでしょ?告白、期待しとけよ。」
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