ゆえん

Ⅱ-Ⅳ



程なくして、俺は楓の家に遊びに行くことになった。


「うちのママ、本当にごろごろしているから、びっくりしないでね」


楓は俺に念をおしてそう言った。

楓の父親は、大手企業の部長をしていた。この頃の楓の家はお金に困ったことはなかったらしい。

楓の話によると、父親は一年前から海外へ単身赴任中だったので、母親が娘と二人だけの生活をかなり緩く過ごしてしまっているそうだ。

俺の家では商売をしている。

雑貨やちょっとした贈り物になるようなもの、そして隣のスペースでは飲み物やフライドポテトや軽食を販売していた。

うちの母親は、朝起きたらすぐに化粧をし、俺たち兄弟の朝ご飯を作り終えたら洗濯物を干し、忙しそうに日々を送っていた。

父親は母が開店準備を終える頃、起きてくる。

夜は父が店の隅々まで掃除をしているから、二人の中では朝は母が仕切り、夜は父が片付けるというルールが成り立っていたのだ。

時間のすれ違いがあっても、家族全員が同じ屋根の下に居る、それが当たり前だった。

そんな家で生活している俺は、家族が別々の場所で暮らすことがどんなものなのか、よく理解できていない。

楓の父親は多忙で、ここ半年は顔も見ていないと言う。


「お母さんと二人だけって、違和感ないのか」

「最初はパパがいなくて寂しかったよ。ううん、今でも寂しいし、顔を見たいなぁって思うけど、今のママを見たら、パパががっかりするんじゃないかって少し心配」


楓は渋い表情で、首を傾げていた。




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