春風センチメンタル
*

 ぶわっと唐突に吹いてきた埃っぽい風が私の長い髪を煽ってスカートの裾を揺らした。
 つい先日まで容赦なく体温を奪っていたそれは今では生温く肌を撫でるので、どこか背筋がむず痒いような落ち着かない気分になる。

 平日の朝だというのにホームにはたくさんの人が行き交っていた。春休み中だからか子供の姿も多い。今も数メートル先には新幹線の姿に熱狂している男の子がいる。旅行なのか仕事なのか、多くの人はスーツケースを引いたり大きなボストンバッグを抱えていた。

「荷物少ないね」

 旅行と言ってしまっていいほど結構な距離を移動するはずの舞子は、さほど大きくもない斜めがけのショルダーバッグ一つというまるで近所のコンビニにでも行くような軽装だ。パーカーにスウェットパンツとスニーカーなんていつもシックな彼女らしからぬカジュアルな格好は長距離移動を快適に過ごすためらしい。
 見慣れない服装とつい昨日切ったばかりだというばっさりと短くなった髪のせいでまるで自分の知っている舞子じゃないみたいだ。

「荷物は昨日全部送っちゃったからねー。身軽な方が楽だし」

 そう言って彼女が笑う。

「お母さん達来るの明日だから、とりあえず必要最低限なものだけ詰めた段ボール開けて何とか一晩やり過ごさなきゃ」

「一人暮らし初めての夜かあ……ドキドキするね」

「ね。でもワクワクする」

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