沈黙の境界線
刹那



雲の隙間から燃えるような紅い空を瞳に焼き付けながら


少しだけ遠くに聞こえるパトカーのサイレンの音を

住宅街に囲まれた小さな小さな公園で一人、絢香は耳を塞ぎ

それでも神経を研ぎ澄ませて聞いていた。





パーカーのポケットの中に残される110番の通話履歴。

頭に浮かぶのは

愛しい

愛しい


恭吾の優しい笑顔。








愛しいからこそ裏切った。


愛しいからこそ裏切るしかなかった。


遅かったとしても・・・


彼の優しい笑顔を燃え尽きた灰にするわけにはいかなかった。









「ラテ。君だけは俺を見捨てないで?」



震えように囁いた彼の言葉が


鮮明に耳に残る。




< 1 / 65 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop