始業の15分前のこの時間、フロアの一ヶ所だけが賑やかに盛り上がっていた。

それはもちろん横山くんの席で、私より先に出社していた彼は集まってきた仲間たちに、長野出張のお土産を配っていた。

いつものように、皆んなの輪の中で明るく笑う彼。
それをチラチラと気にしながら自分の席に鞄を置くと、「紗姫、こっち来て!」と大きな声で呼ばれた。

彼を囲む人たちの視線が一斉に私に向くから、ビクリと肩を揺らしてしまう。

きっと皆んなは、呼ばれても私が無視すると思っているのではないだろうか。

明らかに仕事の用事じゃないと分かる時には、今までの私なら確かに一瞥するだけで動かなかった。

でも今は、素直に横山くんの方に歩き出す。

鼓動が2割り増しで速度を上げ、緊張してしまうのは、いつもと違う私の反応に皆んなが驚いているのが伝わってくるから。

それともうひとつ、これから皆んなの前で、横山くんが交際宣言するつもりでいることを知っているからだ。

私が素顔のままで生活できるように、彼は男避けになってくれると言った。

私が男性恐怖症を克服し、いつか誰かを好きになって交際を始めるその日まで、偽の彼氏となり側にいてくれると約束してくれた。