⑦オオカミさんと。溺れる愛の行く先に【番外編も完結】
第8話 試される愛
という、最悪のタイミングだった。

彼女の姿越しに、二人の姿が見えたのは。

「タダイマ……ぁ…」

燈子に……熊野。

「なんで…」

時が止まった。

“ホラ、見なさい”
板倉愛美が残酷に笑う。

これ見よがしに回された手を、払うことすら出来ない俺には、驚くほど客観的に自分が見れる。

そう。今の俺は、どう繕っても『奥さんの里帰り中に女を自宅に連れ込んだ夫』でしかない。


静寂を破ったのは、熊野だった。

「大神テメェっ‼やっぱり…」
ヤツはつかつかと俺に歩みよる。

板倉が勢いに驚いてサッと逃げた。

ヤツは憎々しげに俺を見下ろすと、襟をつかみ上げて立たせ、頬を張った。

“バシッ”

痛い。が……

出来るなら、もっと痛くしてほしい、吹っ飛ばして壁に埋め込んで欲しかった。

そのまま壁にスウッと消えたい。


「あの靴…やっぱり‼
お前はまだそんなことやって…
トーコちゃんが、可哀想じゃねえか!
俺は、お前らを見て結婚を……決めたってのによぉ…」

声を震わせ肩で息をする。腹立たしいのが良く分かる。
 
熊野の震える肩越しに、スローモーションのように、燈子がこちらへと近づいてくるのが目に入った。

目を合わせる勇気が……ない。
 
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