熱恋~やさしい海は熱砂の彼方~

さっき、みさきちゃんを威嚇したときとは真逆の小さく元気のない声だった。

「先生、彼女、血が出てます」

「おい、誰か安座間を保健室に…」

みんなに向かって先生が言うけど、まだ誰も反応しないうちに…、

「いいです、1人で行けますから…」

…と言って、あたしは教室をあとにした。

結局、そのときはとっさのことだったし、ありがとうも言えずに、その日は終わった。


中2のときはじめてコクられて、舞い上がってソッコー付き合いはじめたけど“男女交際”というのものに対する価値観の違いが、ひと月ともたずに恋を終わらせ、それ以来、あたしは恋に臆病になってしまった。

だから昨日までのあたしには、純愛系のケータイ小説を読みながら、現実にはありえないジョージ先生との愛の日々を妄想するだけの虚しく不毛な毎日しかなかった。

でも、もしかしたら今度こそ本当の恋がはじまるのかもしれない。そんな期待……とゆーか妄想が、あたしの中で急激に膨らみはじめるのを、そのときあたしはたしかに感じた。


今ここにひとつの時代が終わった。ジョージ先生モテモテの時代が終わり、比嘉航平くんの時代がきた。まちがいなく彼の人気は学校中に広まっていくことだろう―――――
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