海老蟹の夏休み
私はザリガニになりたい
 夏休み最初の日曜日。
 前山(まえやま)朋絵(ともえ)は自宅で受験勉強に励んでいる。

「暑い……」
 網戸の外は、蝉の鳴き声が賑やかだ。
 だんだんイライラしてきた。

 エアコンが壊れた部屋での我慢大会に耐えられず、朋絵はノートを放り出す。
 部屋での勉強をあきらめて一階に下りた。


 二階よりましだけど、北向きの台所もかなり暑い。
 壁の時計を見ると、正午を回っている。

「誰もいないし」

 両親は買い物に出かけて留守。高一の弟はサッカー部の合宿とやらで、昨日から姿が見えない。

「食欲ないけど、何か食べなきゃ」
 冷蔵庫を開けて、すぐに食べられるものを探したが、予想どおり空っぽだ。

 仕方ないので冷や麦を作った。
 湯を沸かしてますます暑くなったけれど、我慢する。
 冷や麦しか食べる気にならないのだ。

 出来上がると、エアコンをきかせたリビングに運んだ。
 涼しい。
 誰もいないなら、ここで勉強すれば良かったと思いつつお昼を済ませた。

 
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