日曜の午後。心臓が飛び出してきそうなくらい胸をドキドキさせているけれども、これは決して恋なんかじゃない。そう、私は今、史上最高に緊張している。
「では6番のかた、自己紹介をお願いします」
 右隣のきれいな顔をした女性が優雅な動作で立ち上がった。最近テレビでよく見る若手注目度ナンバーワンの女優だった。紺色のクラシカルなワンピースがよく似合っている。
「姫野明日香(ひめのあすか)です。アクアラボ所属で、これまで5本のドラマ、28社のコマーシャルに出演しています。今日は守岡さんとの実技試験があるということで、尊敬する守岡さんの胸を借り、勉強させていただけたらと思っています。どうぞよろしくお願いします」
 鈴が鳴るような透明感のある高い声で、自信に満ちたそつないアピール。姫野明日香のすべてが完璧で、私のちっぽけなプライドは粉々に砕け散った。
「これっていわゆる出来レースでしょ?」
 数十分前、私が姉に言い放ったセリフだ。姉はにっこりと笑って言った。
「そうかもしれないけど、未莉(みり)がオーディションで最終選考まで残ったのもこれがはじめてでしょ?」
 そうなのだ。
 ひそかにずっと抱いている夢——女優になりたい——に、手を伸ばせば届きそうな場所へたどり着いたのは、これがはじめてだった。24歳の今までオーディション合格経験がなく、現在はカメラメーカーの契約社員をしている。
 正直に言えば、夢は夢のままでもいいのかな、と思い始めていた。まだ若いでしょ、とみんな言うけど、隣の明日香さんは21歳ですでにスターの座についている。この業界で24歳は決して若いほうではないのだ。しかし焦ってみても、私には克服しなければならない深刻な問題があって、それをクリアできなければ、近い将来女優になる夢はあきらめるしかないだろうという気がしていた。
 だからこのドラマオーディションへの招待状を姉から手渡されたときは、宛名が間違っているのではないかと何度も見返した。なにしろ私は演技の経験など皆無なのだから。それなのに、裏返したり、透かしてみたり、何十回と見直してみても、宛名には私の名前が記されていて、差出人の名前はどこにも見当たらない。
「では7番のかた、お願いします」