「何しに来た」
「それ、絶対言うと思った」
 白い目で見ると、優輝も同じように冷淡な視線をよこした。
「来るなと言ったはずだ」
 確かに電話でそう言われたけど、その言葉に従う義務はない。ついでに義理もない、と思う。
「せっかくお見舞いに来たのに怒ることはないでしょ」
 私が口を尖らせると、優輝は小さくため息をついた。
「すっげー痛いんだよ」
 台本を棒読みするような、あっさりとした言い方だった。感情がこもっていないぶん、その言葉は私の胸に鋭く突き刺さった。
 あらためてベッドの上を観察してみる。優輝の足はまだ牽引されたままだった。痛々しいのですぐに目をそらし、彼の顔を凝視する。目が赤い。
「痛すぎて眠れないから、ずっと本を読んでいた」
 私の心を読んだのか、ふいと視線を外した。
 しかし眠れないほど痛むとは! しかもそれをひとりで耐えなければならないとは!
 すべて私のせいだ。
 私があの現場に行かなければ——いや、私があのオーディションを受けなければ、優輝はこんな目に遭わずに済んだのだ。
 後悔が止まらない私に、優輝は容赦なく追い討ちをかける。
「手術後はもっと痛いらしい」
「そう、なんだ……」
 私は無意識に唇を噛んでいた。軽く受け流せるような話題ではない。実際足を牽引するための物々しい器具を目の当たりにすると、自分のなんでもない足からふにゃふにゃと力が抜けてしまいそうになる。
「そういう顔見たくないから、来るなと言ったのに」
 気がつけば優輝が迷惑そうな表情でこっちを見ていた。
「ごめ……」
「あやまるな。俺は大丈夫。痛いけど、これくらいじゃ死なない」
 ——これくらいじゃ死なない。
 そっけない口調なのに、私の心の中にできた固い結び目は嘘みたいにするすると解けていく。
「そうだね。この程度じゃ、ね」
 と、そのとき、優輝がぎょっとして目を見開いた。
「未莉……」
「ん?」
「マスク、息苦しくないか?」
 確かに少し苦しい。そう思って耳にかかるゴムを外そうとした瞬間、ガラガラと勢いよくドアが開いた。
「検温です。あ、お客さん?」
 髪を後頭部で一束にした眼鏡の看護師さんが物怖じせずに入ってくる。この説明だと清楚な女性の姿を想像するかもしれないが、実は彼女の長い髪はスパイラルパーマで背中にはふわふわの毛が爆発したかのように広がっている。