翌朝、出社して最初に顔を合わせたのが製品管理部の谷本さんだった。
「最近お休み多いから体調悪いのかと思っていたけど」
 谷本さんは私の顔を遠慮なく覗き込んでくる。
「柴田さん、恋してる?」
「ど、どうしてそうなるんですか!」
 動揺した私は朝から廊下で大声を上げてしまった。通り過ぎる社員たちに怪訝そうな目を向けられ、肩をすぼめるがもう遅い。
 社員の谷本さんはニヤニヤしながら私に顔を寄せた。
「だってなんだかすごく表情が明るいから。なにかいいことあったでしょ? 彼氏できた?」
 間近にある谷本さんの顔を見つめながら、なんと答えるべきかと考える。
「そうですね。いいことはありました」
 昨日は無事コマーシャルの撮影を終えて、スペシャルドラマに出演できるかもしれないとわかって、予告なしに優輝が退院してきて、彼が実家に私のポスターを貼っていたのを認めて——。
 と、思い出していたら、谷本さんが声を潜めて「あのさ」と言いにくそうに切り出した。
「相手は友広くん?」
 私は思わず「は!?」と大声を上げる。
「違います。友広くんとは何もありません」
「あら、そうなの。でも噂になっているわよ」
「困ります。どうしてそんなことに?」
「だってあなたたち、最近よそよそしいでしょ? 逆にあやしむ人がいて、付き合っているんじゃないかって」
 なんということだ。社内恋愛が禁止されているわけでもないのに、よそよそしいのを付き合っていると深読みされるとは。
「違います」
 もう一度力いっぱい否定すると、谷本さんは残念そうな表情をしたが、すぐに「じゃあ」と目を輝かせた。
「どんな人?」
「い、いや、その……」
「社外の人? かっこいい? 歳は?」
 畳みかけるような問いに、深呼吸をしてから誠実に答える。ま、彼氏ができたことを認めるくらいはいいよね?
「えっと、年上の社外の人です。まぁ、かっこいい、かな」
「へえええええ!」
 谷本さんは頬に手をあて、照れるようなしぐさをした。
 そのおちゃめなポーズを見ながら私は、案外照れていない自分に内心驚いていた。むしろ彼氏の存在をもっとアピールしたいような気分だ。
 まぁ「彼氏を紹介しろ」と言われたら困るし、優輝を彼氏と呼んでいいのか若干疑問だけど。
 さらに何か言おうとした谷本さんが、不意に固まる。
「おはよう、友広くん」