どうしてほしいの、この僕に
 私の斜め前にはいかめしい表情の屈強なボディーガードがいて、私の後ろには高木さんがいて、その後ろにはお偉いさんたちがぞろぞろと連なっていて、そして私の真横には上機嫌な優輝がいる。
「柴田さんもここで昼食を?」
「ええ、今日もここの片隅で食べました」
「へぇ。お弁当を持参することはないの?」
「あいにく朝は忙しくて弁当を作る暇がないのです」
「ふーん。忙しいんだ?」
 隣から意味ありげな視線を向けられたけど、私は気がつかないふりをした。
「ええ、私はぎりぎりまで寝ていたいほうなので」
「意外だね。早起きしそうな感じがするのに」
「残念ながら朝は苦手なんです」
「朝、走ると気持ちがいいよ。もし早起きできたら試してみてください」
「たぶん永久に無理です」
 私がそう答えると、優輝はプッと大げさにふき出した。
「そう。なかなか強情だね」
「褒め言葉と受け取らせていただきます」
 クックッと顔をそむけて笑う優輝を横目で思い切り睨む。すると後ろの高木さんまで、こらえきれないように喉をクッと鳴らした。
「じゃあ、そろそろ柴田さんの部署に案内してもらえないかな」
 笑いをひっこめた優輝が、私の顔を覗き込むようにして言った。
 私は優輝から目をそらし、小さくため息をつく。
 ここまでは勤務時間中に社員が立ち寄らない場所の案内だったけど、この先は実際の職場見学になる。なぜ私まで全社員の好奇の目に晒されなければならないのか。
「急に静かになったけど、どうかした?」
「できればこの先にはご案内したくないですね」
「へぇ、もしかして恋人がいるとか? 社内恋愛?」
 すぐさま隣に冷ややかな視線を送る。それを優輝は涼しい顔で受け止め、微笑みを返してきた。
「ここは会社で、仕事をする場所ですけど」
「でも恋愛をしてはいけない、という決まりもないはず」
「お仕事中、いつもきれいな女優さんに囲まれている守岡さんならではの発言ですね」
 私はわざと優輝の顔を見上げて言った。こんなの嫌味のうちに入らないでしょう。事実だもの、ね。
 予想通り優輝は笑みを絶やさない。だけど口を開く直前、彼の頬が少し歪んで見えた。
「あいにく僕は仕事と恋愛を一緒にできるほど器用ではないんだ」
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