苦しくて、愛おしくて





「凛、今ちょっといい?」

「なに? いいけど」


珍しいと思った。

勉強を遮ってまで何かを伝えてくることなど無かった母親がわざわざ俺の部屋に来たから。


そういうとき、悪い予感がしてしまうのは、もう性格だから仕方ないとして


「……あのね、凛
………お母さん妊娠したの」


本当にその予感が的中するのは、勘弁してほしい。

ギュッとシャーペンを握る手に力が入る。


「……何考えてんの、いい歳して」

「うん、そうよね、でも凛にも弟か妹が…

「はは。弟? よく言うよ、女以外認めねぇくせに」

「っ」


昔からこの人は嫌になる程分かりやすい。

図星を突かれて何も言えなくなるなら、初めから正直に言ってくれた方が、どれだけ楽か。



まだ俺が胎児だった頃、性別が男だと分かったとき、どれだけガッカリしたか。

俺と2人きりで居たくないから
わざと忙しく働いてること。


用がある以外で話しかけることなんて何も無いってこと。



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