楽園
裏切る者、裏切られる者
次の日、華は健太郎の母を東京見物に連れていった。

夕方、健太郎の叔母の家まで送り届け
その日は翔琉に会えなかった。

昨日の夜の事があって
顔を合わせるのも何となく気まずかった。

その夜、健太郎は絵美に逢っていた。

「昨日はごめん。
1日遅くなったけど…」

健太郎が絵美の足首に金のアンクレットを着けた。

「似合ってる。」

「ね、華の誕生日には何をあげてるの。」

絵美は何かと華を気にした。

「華には何も…外で食事するくらいだ。」

「確かに華にはアンクレットなんか似合わないもんね。」

「絵美、華の話をするのはやめてくれないか?」

絵美はその言葉にまた傷つく。

「どうして?」

「しらけるだろ?」

健太郎は絵美に華を馬鹿にされたくなかった。

健太郎にとって華は華で大切ではある。

健太郎に華と別れる気など全くなかったし
絵美は連れて歩いたり、寝たりするのは楽しいが
妻には不向きな女だと思っている。


その頃翔琉は華の部屋を訪ねていた。

「今日は会えなかったから。」

翔琉は華の頬を撫でキスをする。

「昨日から夫の母が来てて、ごめんね。」

華の顔が少し曇っているのに翔琉は気付いた。

「何かあった?」

「ううん、気を遣って疲れちゃった。
明日は翔琉の部屋に行くから。」

華のよそよそしい態度に翔琉は何となく不安になる。

翔琉と目を合わせない華を部屋から連れ出して
自分の部屋に連れていくとドアを閉めて華にもう一度キスをする。

「華はオレが好き?」

華はその言葉に胸を痛める。

どんなに好きでも自分はまだ健太郎の妻だった。

それが昨日の夜、はっきりわかったから。

それでも華は翔琉に答える。

「うん、好きだよ。」

そして華からキスをした。

帰ろうとする華を翔琉は抱きしめた。

「だったらオレだけのモノになって。」

華は答えを失った。

そして答える代わりに翔琉にもう一度キスをした。

「明日また来る。」

そう言って華は自分の部屋に帰っていった。

翔琉は久しぶりにこんな気持ちになった。

2度と思い出したくないあの時のように
自分が華をあの闇に包んでしまうような気がしたのだ。

翔琉は3年前、恋人がいた。

ところが彼女は他の男と恋に落ちて
男は翔琉から彼女を奪おうとした。

彼女を連れ戻そうと翔琉は二人の車を追った。
二人はその車で事故を起こし
呆気なくこの世を去った。

翔琉は一人残された。

自分が追わなければ二人がいなくなることはなかった。

恋などもう誰ともしないつもりだった。

だけどどうしようもなく華に惹かれた。
大切な人を奪われて悲しむ華は3年前の自分と重なった。

追い詰めたら今度もまた同じように華の命まで失ってしまいそうで怖くなった。

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