楽園
金のアンクレット
華は部屋に戻って考えていた。

翔琉のために健太郎と別れるのかを。

それは簡単じゃなかった。

健太郎と過ごした5年間は嫌なことばかりじゃなかった。

少なくともあのホテルの領収証を見つけるまでは
華は健太郎を愛していた。

その夜、帰ってきた健太郎が華にプレゼントをくれた。

「華、脚出して。」

健太郎が華をダイニングの椅子に座らせ
脚をいきなり掴んだ時はビックリしたけど
健太郎はその脚に金のアンクレットを着けた。

「どうしたの?」

「綺麗だろ?華は脚が綺麗だから似合うと思って。
華、お袋に良くしてくれてありがとう。」

例え健太郎にとって女じゃなくなったとしても…
華にとって憎い男になっても…

健太郎と華には5年間の家族の歴史がある。

華はまた踏みとどまる。

そのアンクレットがこれから招く不幸を華はまだ知らない。

5年の歴史なんて呆気なく簡単に壊れることも華はまだ知らなかった。


その日の朝、一本の電話がかかってきた。

「華?ひさしぶりね。誰だかわかる?」

電話の相手の声に聞き覚えがあった。

華の劣等感をいつも引き出すその声の主は
間違いなくあの絵美だと思った。

華は何となく嫌な予感がしていた。
それが何かは分からないけど…
絵美はいつも華を惨めにするからだ。

「…久しぶりだね。
絵美、どうしてたの?」

「華、少し逢って話さない?」

華は不安ながらも仕方なく絵美に逢いに行った。

久しぶりに逢った絵美は昔と全く変わらず綺麗で
華には無い"華"がある。

女子力が高いっていうのは絵美みたいな女の事だと思った。

華はあまりにカジュアルな自分の服装が恥ずかしくなった。

その時、脚を組み換える絵美の脚に華の目が止まった。

それは昨日華が健太郎に着けて貰ったものによく似ていた。

挑戦的に笑う絵美を見て
華は健太郎の相手が絵美だと気づいた。

「絵美だったんだ。」

「え?」

「健ちゃんの相手。」

絵美は意外だと思った。

華は何も知らずに健太郎をバカみたい信じて生きてると思ってたからだ。

「秋島さんに女が居るって気付いてたの?」

「うん。」

「そう、だからあんまり驚かないのね。」

絵美はちょっと拍子抜けしたようで面白くなかった。

「アタシって知ってどうするつもり?」

「絵美は?健ちゃんと別れてほしい?」

あまりに冷静な華が絵美を再び驚かせる。

「別れてって言ったら?」

「アタシのお古で良かったら絵美にあげる。
アタシはもう要らないから。」

華はそう言うと席を立った。

絵美は呆気に取られた。

そして健太郎がつまらない男に思えてきた。

「華のクセに何様のつもりよ。」

絵美は腹が立って健太郎に電話をかけた。

「華は知ってたのね?
秋島さんをアタシにくれるって言ってた。」

健太郎はいきなり何かと思ったが
情況をすぐに飲み込めた。

「お前、華に逢ったのか?何のために?
華に何を言ったんだよ?」

健太郎は焦っていた。

まさか華が自分の不貞を知っていて
今まで黙っていたなんて考えたこともなかった。

―華はいつから知ってたんだろう?―

健太郎は居ても立ってもいられず
急いで家に戻ってきた。

チェーンの切れた金のアンクレットが
投げ捨てたように床に落ちていて
健太郎は愕然とした。

その時、華は翔琉の部屋に居た。

相手が絵美だと知ってホントはものすごくショックだった。

心から健太郎のことを軽蔑したし顔も見たくなかった。

華は翔琉の胸で泣いていた。

「翔琉、アタシをあの人から奪って…お願い。」

華は翔琉に泣きながらキスをして
翔琉はそんな華を愛しく抱きしめる。

そして華を夢中で抱きながら
「華はもうオレのモノだよ。」
と言った。

華の携帯に健太郎から何度も着信があった。

華が壁の向こうで翔琉に抱かれているとも知らず
健太郎は必死で華を探した。
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