楽園
健太郎はその夜お酒を浴びるほど飲んで、
家に帰らず隣の部屋のベルを鳴らした。

出てきた男は自分より少し若い、背の高いあまりにもいい男だった。

完全に負けてると思った。

「こんばんは。華さんのご主人ですよね。」

翔琉は健太郎を何度か見かけたことがある。

華の部屋の結婚式の写真も見たし、
すれ違った事もある。

健太郎はすれ違っていたのも気が付かず、
隣に誰が住んでるかも知らなかった。

翔琉があまりに堂々としていて健太郎は余計腹が立った。

「中へどうぞ。」

部屋に入ると健太郎はいきなり翔琉を殴った。

「華に何をした?」

翔琉は殴られても冷静で
「あなたは自分が華さんに何をしたかわかってますか?」
と言った。

健太郎は言葉を失い、翔琉を殴るしかなかった。

そして自分の家に戻ると華に無理矢理キスをした。

逆らう華を健太郎は許さなかった。

「別れないよ、別れないからな。」

華は部屋を飛び出して翔琉の部屋に逃げた。

ドアを開けた翔琉の顔を見て華は驚いた。

「その顔、どうしたの?

…もしかしてあの人ここに来たの?」

追いかけてきた健太郎が翔琉の部屋の扉を叩いて怒鳴っている。

「華!出てこい!」

華は震えていた。

翔琉はこのままでは大騒ぎになると再び扉を開けた。

「どうぞ。」

健太郎は靴のまま部屋に入ると華の腕を掴んで連れていこうとした。

翔琉はそれを止めて
「華を傷つけるな!」
と言った。

自分の妻を呼び捨てにする男を許せなかった。

健太郎は翔琉を殴り、華を連れて駐車場に向かった。

そして華を無理矢理車に乗せた。

翔琉はそれを追いかけて自分の車に乗った。

エンジンをかけたところで思い出した。

あの時と全く同じだった。

そう思うと華を追いかけられなくなった。  

翔琉は急に胸が苦しくなってその場に留まるしかなかった。

華は健太郎に夜の街に連れて行かれた。

健太郎の運転はいつもより荒くて
華は何とか健太郎を落ち着かせ
車を路肩に停めさせた。

「アタシにどうして欲しいの?」

「アイツと別れてやり直すんだ。」

「健ちゃん、自分がしたことは忘れたの?」

「オレは別れたんだ。
華も別れろよ!」

「健ちゃんはアタシを許さないでしょ?
アタシも健ちゃんを許せない。
アタシたちはもう終わりだよ。」

華はそこで健太郎の車を降りた。

健太郎は捕まえようとしたが、華は健太郎の手を振り払い
翔琉の元に行こうと車道に飛び出した。

その時、健太郎が華を追いかけて走って来るのが見えた。

華は振り返らず反対側の歩道をめがけて思いきり走った。

すると後ろから大きな音がして華が驚いて振り返ると
健太郎が頭から血を流して道路に倒れているのが見えた。

華はあまりのショックで立っていることも
声を出すことも出来なくて
その場に座り込んだ。




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