クールな御曹司と愛され政略結婚
「ご注文は」
「…ジンフィズで」
「唯子と飲めるなんて嬉しいな、初めてだね」
姉が煙草を新しいものに替えながら、にこりと微笑んだ。
口紅のついた吸殻が捨てられている灰皿の縁で、灯が二本の指に挟んだ煙草を、親指で弾くように叩いて灰を落とす。
姉は昔と服の趣味もそう変わっていないらしく、ワイドシルエットのネイビーのパンツに、白いノースリーブのブラウス、ヌーディカラーのパンプスというシンプルな装い。
落ち着いたブラウンの髪が、つやつやと波打って肩に落ちている。
私は部屋にいたときのまま、着古したTシャツに、足首のあたりで適当に切ったゆるっとしたデニム。
なんだかよくわからないアウェー感に襲われて、気分が落ち込んだ。
私のドリンクが来るまで、誰もしゃべらなかった。
冷たいグラスを掲げて、三人で白々しく乾杯したとき、私はそこそこ重大なことに気がついた。
「私、お財布持ってない…」
姉がぷっと吹き出し、それを見た灯も表情を緩める。
「ここは俺たちが払うから大丈夫だ。でも家を出るときは、必ず財布を持ってろ。なにかあったらどうする」
「こんなところまで来ると思わなかったんだもん」
「いいだろう、この店。私の友達がオーナーなんだ。使ってやってね」
「場所がわかりにくくて損してないか?」
「灯は迷わなかっただろ?」
「まあ、"LOOP"の跡地って言われれば、このへんで遊んでた奴はわかるよ」
「それでいいんだよ、そういう人に声かけてやってくれ」
会話はすでに、私を置いてきぼりにして流れはじめている。
今の私は、灯の"俺たち"という言葉にすら反応してしまうというのに。
懐かしさすら覚える、この"年長ふたり+妹"という構図。
私と幼なじみであるのと同じく、もしくはそれ以上に、灯は姉とも幼なじみであるわけで、年齢でいったら彼らのほうが距離が近い。
彼らがふたりで話しだすと、私はたいてい置いていかれた。
それが嫌で三人になるのを避けていたため、実はこの面子で集まったことすら、ほとんどない。
「…ジンフィズで」
「唯子と飲めるなんて嬉しいな、初めてだね」
姉が煙草を新しいものに替えながら、にこりと微笑んだ。
口紅のついた吸殻が捨てられている灰皿の縁で、灯が二本の指に挟んだ煙草を、親指で弾くように叩いて灰を落とす。
姉は昔と服の趣味もそう変わっていないらしく、ワイドシルエットのネイビーのパンツに、白いノースリーブのブラウス、ヌーディカラーのパンプスというシンプルな装い。
落ち着いたブラウンの髪が、つやつやと波打って肩に落ちている。
私は部屋にいたときのまま、着古したTシャツに、足首のあたりで適当に切ったゆるっとしたデニム。
なんだかよくわからないアウェー感に襲われて、気分が落ち込んだ。
私のドリンクが来るまで、誰もしゃべらなかった。
冷たいグラスを掲げて、三人で白々しく乾杯したとき、私はそこそこ重大なことに気がついた。
「私、お財布持ってない…」
姉がぷっと吹き出し、それを見た灯も表情を緩める。
「ここは俺たちが払うから大丈夫だ。でも家を出るときは、必ず財布を持ってろ。なにかあったらどうする」
「こんなところまで来ると思わなかったんだもん」
「いいだろう、この店。私の友達がオーナーなんだ。使ってやってね」
「場所がわかりにくくて損してないか?」
「灯は迷わなかっただろ?」
「まあ、"LOOP"の跡地って言われれば、このへんで遊んでた奴はわかるよ」
「それでいいんだよ、そういう人に声かけてやってくれ」
会話はすでに、私を置いてきぼりにして流れはじめている。
今の私は、灯の"俺たち"という言葉にすら反応してしまうというのに。
懐かしさすら覚える、この"年長ふたり+妹"という構図。
私と幼なじみであるのと同じく、もしくはそれ以上に、灯は姉とも幼なじみであるわけで、年齢でいったら彼らのほうが距離が近い。
彼らがふたりで話しだすと、私はたいてい置いていかれた。
それが嫌で三人になるのを避けていたため、実はこの面子で集まったことすら、ほとんどない。