恋色流星群



お店の送りの車で帰らなくなったのは、入店当初なかなか先輩お姉様方とうまくいかなかったから。

お店を出たら早く一人になりたくて、タクシーで直帰するようになった。






女子の世界だからね。
そりゃあ、いろいろありますよね。


けど、今なら分かる。
こんな六本木の老舗クラブに、20代そこそこの小娘がやって来たら。



私でも疲れるし、面白くなかったかもしれない。
まぁ私なら。あんな意地悪は、しないけどね。





時が解決してくれる、というのは本当。

5年の歳月の中で大分新陳代謝は進み、在籍期間だけは古株と言われるまでになった。



この仕事に拘りがあったわけじゃないけど。
やりかけたことを途中でやめるのは、負けな気がしたから。



そのうち天職だとかナンバーワンだとか煽てられるようになって。
見事に、今日に至るまでになってしまった。











『あ、今日はここで降ろしてください。』


たまたま捕まえたタクシーの運転手さんが馴染みの人だったから。
過ぎそうになるコンビニの前で慌てて声をかけた。




「え?ここでいいの?」

『はい。コンビニ寄りたいんで。』

「危ないな~。最近、ここら辺物騒なんだよ。
明日にしたら?それか、すぐなら待ってるけど。」




夜の世界の人は。
顔なじみになれば、驚くほどあったかくて人情深い。

コンビニからマンションまでは歩いて10分ほど。



『大丈夫♡おじちゃんもお疲れさま。』



少しだけ多めにお金を置いて、タクシーを降りた。





大したものが欲しかったわけじゃなくて。

翌朝食べるヨーグルトがどうしても欲しかっただけ。









油断、していた。

変質者にもナンパ師にも、“人気”があるほうだったのに。







人間というのは、本当に。





喉元過ぎれば

熱さも忘れる。
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