妻に、母に、そして家族になる
●廻りだす運命

疲れた顔の男性


十二時五分。

お昼の時間になると、いつも弁当屋『ひまわり』の扉を開けてやってくる人がいる。

夏の暑い空気と共に店内に入って来たのは、二十代半を過ぎたぐらいの男性。

身長は一八〇cmぐらいで、スラッとしたスタイルにスーツがよく似合う。

アーモンドみたいな形の目には人懐っこさがあって、全体的に整った顔をしていた。

絶対モテるであろう男性の見本のような人だ。

けどマイナスな部分がある。

それはいつも疲れた顔をしていることだ。

それに体に纏っている空気はいつも重くて、シャツも皺が寄っていてヨレヨレ。

せっかくのイケメンが台無し。

「これください」

男性がラミネートで加工されたメニュー表から選んだのはのり弁。

値段もお手頃で、量もあるのり弁はひまわりの人気メニューの一つ。

この男性はだいたいのり弁を選ぶ。

「はい、のり弁ですね。あそこの席でお掛けになってお待ちください」

私、橘 文香(タチバナ フミカ)は注文を受けると、指を揃えて手で席の場所を指した。男性は席に座ると体に溜まった疲れを吐き出すように、深い溜息をついた。
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