キミの笑顔が見たいだけ。

まっすぐな想い



文化祭2日目ーー。


日々準備に追われ、ここ数日はまさに怒涛の勢いだった。


あたしたちのカフェは、ある人のおかげで大繁盛。


昨日もすごく忙しかったけど、一般公開日の今日はさらに忙しくなりそうな予感。


朝から天気は見事な秋晴れで、お祭りの雰囲気が学校中に漂っている。


開始と同時に、どこで噂を聞きつけたのかたくさんの女の子が押し寄せた。


「やばーい!矢沢君の王子様姿、かなり萌えるんだけど!」


「胸に赤いバラまで刺しちゃって、まさに王子様だよねー!」


「惚れちゃうかもっ!」


「後夜祭で告白しちゃおうかなぁ」


うっ。


昨日もだったけど、矢沢君のモテっぷりはやっぱりすごい。


中世のヨーロッパ風の貴族のような衣装を身に纏った矢沢君は、腰に剣をさしてまさに本物の王子様スタイル。


普段は無愛想でクールで近寄り難い雰囲気を放ってるけど、その衣装のおかげで中和されている。


うん、カッコいい。


一般公開日のせいか他校の生徒や中学生もたくさん来ていて、みんなコソコソ矢沢君を見てる。


「うぜー」


矢沢君はそんな女の子たちを冷ややかに見ながら、あたしだけに聞こえる声でボソッとつぶやいた。


「で、でもほら、すごく似合ってるよ」


「はぁ?これのどこがだよ。胸にバラとか、マジで終わってるだろ。キャラじゃねーし」


「そんなことないよっ!ホントの王子様みたいでカッコいいもん!」


「え……?」


驚いたように目を見開く矢沢君。


わー、あたし何言ってんの!


でもでも、ホントのことだし。


「あ、えっと……ウソじゃ、ないよ……!ホントにカッコいいから。だから、そのっ」


って、ほんとになに言ってるのあたし。


これじゃ変に思われちゃう。


それに真っ赤な顔を見られたくない。


恥ずかしいよ。


「マジ、か……サンキュ」


照れたようにボソッとつぶやく矢沢君。


「あ、あたし、仕事に戻るね」


赤くなった顔を隠すように背を向け、そばを離れた。


そのままバックヤードに引っ込み、しばしの間気持ちを落ち着かせる。


あたし……なにやってるんだろう。


矢沢君の王子様姿に、こんなにもドキドキしてるなんて。


カッコいいとか、本人に面と向かって言っちゃった。


ばか……。


はぁ。


「矢沢君!一緒に写メ撮ってもらえませんか?」


「ムリ」


「い、1枚だけでいいので……!」


「ダルい」


「そ、そんな……ひどい」


「俺、写真とか嫌いだから」


そんなやり取りが遠くから聞こえて来た。


< 58 / 222 >

この作品をシェア

pagetop