「その数日後、営業で飲んだときさ、珍しくすごいピッチで飲んでんなーって思ってたら、八坂さんベロベロになっちゃって。
『自分の意思で飲んでおいて、ひとりで帰れねーとか馬鹿じゃねーの』だの『最初っから送り狼期待してるとか、女のくせにはしたねぇ』だの、すごかった」

倉沢さんが苦笑いを浮かべながら言う。

「八坂さんってさ、なにかにつけて特定の誰かと比べてるような言い方するんだよ。八坂さんのなかには特定の誰かがいて、その子が〝普通〟なんだろうね。だから、誰を見るにも、その子と比べてる感じ」
「……そう、ですか」

ワンテンポ、返事が遅れた。
なんだか、気持ちが遠くなってしまって。

「まぁ、八坂さん、表情おっかないけど美形っていえばそうだしね。彼女いたっておかしくないけど。八坂さんの彼女も、瀬名ちゃんの言うように、懐けば可愛いって思ってるのかもね」

倉沢さんが言っていることが、すっと入ってこなかった。

別になにかを期待していたわけじゃない。
一度壊れた関係を修復したいと願ったわけでもないし。

それでも……ショックを受けている自分を誤魔化せなかった。

八坂さんは、恋人に対して誠実なひとだ。
私のときだってそうだったから。

恋人がいる状態で、他の女の子と遊んだりはしない。
つまり、私は〝ただの同僚〟とか、そういう仕事仲間としてしか見られていないってことだ。

別れて七年も経てば当たり前のことなのに、気持ちが沈んでいく。

まるで水のなかにでも入ってしまったように呼吸が苦しい。
コポリと空気がもれた気がした。




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