アスファルト
~罪~
「はじめまして~、いくつなの?」
 
 「19です。」
 
 「今日はどうしたの?」
 
 「お小遣い欲しくて・・・」
 
 「あはは、やっぱりそうか。いいよ、いくらくらい?」
 
 「えっ、いくらくらい?」
 
 「君こういうの初めてだね?」
 
 「はい・・・」
 
 「ははは、そうか。なら教えてあげるよ。」
 
 「はい。」
 
 「大体ね、この世界は″込み2″が相場だよ。」
 
 「はあ・・・込み2・・・」
 
 「そう、ホテル代込みで2万円。」
 
 「あぁ!そういうことか!」
 
 「あはは。で、どうする?会ってみる?」
 
 「え、あ、はい!」
 
 「そんなに緊張しなくていいよ。」
 
 
 
 
 
 
 
 約束通りに現れた男の人。
 
 優しそうな30代半ばくらい。
 
 
 踏み込んではいけない世界に入ってしまったアタシを、その男は
 笑顔で自分の車に乗せた。
 
 
 
 
 
 
 「あははは、緊張しなくていいって言ったでしょ?」
 
 「でも・・・」
 
 「食事だけにする?渡す額減っちゃうけど。」
 
 「・・・ううん!ホテル行く!」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 「今日は初めてだし″別2″にしてあげるよ。」
 
 「いいんですか?」
 
 「また会った時はよろしくね~」
 
 
 
 
 最初に会った場所にアタシを降ろし、男は去って行った。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 夕方母に会い、1万を渡す。
 
 

 
 「えっ!どうしたの、このお金・・・」
 
 「いらないなら返して。」
 
 「・・・ごめんなさい。」
 
 
 
 
 
 
 
 こんなやり取りを1ヶ月程した。
 
 
 
 
 
 
 
 
 何十人に援助してもらっただろう。
 
 アタシは完全に″慣れて″しまっていた。
 
 
 
 
 昼過ぎからまた会っていた。
 いつも通りホテルに向かう。
 
 「何となく癖のある奴」
 そう思った。
 
 
 
 
 
 
 「ごめん、俺1人でゆっくり入りたいんだけど先いいかな?」
 
 「うん、いいよ。」
 
 「ありがとう。その後ゆっくり入ってね。待ってるから。」
 
 
 
 一々うるせー奴。
 
 
 
 すっきりした男が今度はアタシをシャワーへ促す。
 
 
 
 「待ってるからゆっくりね!」
 
 
 妙にハイテンションな男。

 
 
 
 
 
 男に触られた感触を消すのに必死になりながらも、
 慌てふためくような不信な物音に気が付いては居た。
 
 
 
 
 
 
 「やっぱり・・・」
 
 
 部屋はもぬけの殻。
 
 慌てた男が落としていった靴下が片方だけあった。
 
 
 
 
 「やるだけやってトンズラかよ。」
 
 
 
 
 
 なぜか笑えた。
 
 
 
 
 部屋のドアは清算しないと開かない仕組み。
 
 もちろん清算は済み、開いている。
 
 よって慌てる必要なんてなかった。
 
 
 
 まだ力が入らない自分の足を持ち上げ洋服を着させた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 話も盛り上がっていないのに、随分遠くまで行くなぁ。
 こういうオチか。
 
 待ち合わせた場所から駆け離れたラブホテル。
 
 
 
 
 
 何も考えず歩いた。
 ひたすら歩いた。
 
 なぜか溢れてくる涙が鬱陶しかった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 「もう帰りなさい。」
 
 居候生活が2ヶ月に入った頃、突然言われた。
 
 
 
 
 
 
 「今日お母さんから電話が入ったよ。すごく心配してるよ。」
 
 「ごめんね、おばさん。」
 
 「またいつでも遊びにおいで。」
 
 
 
 
 
 身支度を済ませ外に出ると母の姿があった。
 
 
 親友のお母さんに深々と頭を下げる母。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 「やっぱり自分の家が1番だろ。」
 
 
 
 軽く笑いながら話し掛けてくる父。
 
 母は言葉無く俯いている・・・
 そう思った。
 
 
 
 
 
 「あのさ、お父さん・・・もう限界だよ!」
 
 
 
 初めて見る母の顔。
 
 怒り、悲しみ、悔しさ、辛さ、情けなさ。
 全部が混じったような、そんな顔。
 
 
 
 
 
 
 「えっ・・・」
 
 「なんでアンタは働かないの?」
 
 「だって腰が・・・」
 
 「アンタの腰は何十年も痛むの?」
 
 「なんだよ急に!」
 
 「急じゃない!いつまでこんな生活続けるの!」
 
 「うるせー!誰が毎日洗濯、掃除してやってるんだ!」
 
 
 
 
 根っからのクズだと思った。
 
 
 
 アタシも黙っていられなかった。
 
 
 
 
 「お前、アタシが居ない間も飯食ってたよな?」
 
 「なんだ、お前は黙ってろ!」
 
 「アタシがおかあに金渡してたのも知ってるよな?」
 
 「だったらなんだ!」
 
 「無職のアタシがどーやって金つくってたかわかるか?」
 
 「なぁ、お前も!!!」
 
 
 
 
 
 
 母の言葉に正直驚いたが、勘違いしないでほしい。
 
 母に賛同したわけではない。
 
 
 
 
 
 
 
 黙り込む父と母。
 
 妹や弟も聞いていた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 「テレクラで知らねーオッサン達とセックスして金貰ってたんだよ!」
 
 
 
 
 
 泣き出す母。
 
 
 
 
 
 
 「テメーらはそんな金でアタシに食わせてもらってんだよ!」
 「感謝しろ!有り難いと思え!アタシの言う通りにしろ!」
 「死ね!みんな死ね!死ね!」
 
 半狂乱だった。
 
 
 
 
 
 
 「わるかった、もうわかったからやめてくれ。」
 
 暑くもないのに額に汗を滲ませた父が言った。
 
 
 
 
 
 
 
 「ぎゃぁぁぁ・・・うわーん・・・あぁぁぁぁぁ・・・」
 
 感情のコントロールが完全に出来なくなっていた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 次の日、仕事を休んだ母が運転する車の助手席。
 
 弁護士の元へ向かっていた。
 
 
 
 
 
 
 負の連鎖を断ち切るべく、借金の相談に来たのだ。
 
 
 
 
 
 
 
 実際にはどのくらいだったのだろう・・・
 
 何十年と経っているような、そんな暗い借金生活。
 
 
 出口の見えない長い長いトンネルから救い出してもらった。
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