魔法使い、拾います!
「いや、僕は着られればそれで……。しかし、そんなに変ですか?」

笑われたのが恥ずかしかったのか、ヴァルは自分の体をあちこち見渡した。そんなヴァルの仕草が無性に可愛く思えて、リュイは更に笑いが止まらない。

「僕がこの服をお借りしても良かったのですか?これを見て、父上を思い出して辛くなったりはしませんか?」

リュイは懐かしい父の姿を思い浮かべる。記憶の中の父は、いつも温かい目をして笑っているような人物だった。

「全然。それに自分の服が役に立って、きっと父さんも喜んでいると思うから。」

「はい…そういう方でしたね。」

「え?」

「いえ…。主を見ていればどんな方だったのか想像できます……と、言いたかったのです。」

ヴァルはふんわりと包み込むようにリュイを抱き寄せた。

「一人でよく頑張りましたね。しかし……二人一緒に落雷事故に遭うとは……残念でなりません。」

先程移動した時の抱きしめられ方とは違い、リュイの胸に甘酸っぱい高鳴りが走った。男の人の腕の中とは、こんなにもドキドキとして緊張するものだっただろうか。

両親が無くなった時グレンにも抱き寄せられたが、こんな感覚にはならなかった気がする。手放しの安心感しかなかったグレンと、ヴァルの腕の中は違うのだ。同じ優しさを貰っているはずなのに、この違いは面白い。

この違いの正体に気づくには、あまりにリュイの経験が無さ過ぎた。

「あれ……?」

リュイはヴァルの顔を見上げた。そう言えば、自分はまだヴァルに両親の事故の話をしていないはずだ……。

「ヴァル?どうして父さん達の事故の事……。」

そう切り出してみたがリュイは追及するのを止めた。こんな風に悲しそうに微笑む人を初めて見たからだ。

きっとヴァルは自分の知らないところで、両親とつながりがあったのだろう。家の事も知っている風だったではないか。そう想像するだけで今はいい。

今は……この優しい時間を壊したくない。
< 16 / 100 >

この作品をシェア

pagetop