【第一章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を

複雑な心

「……ふふっ、お前の涙の理由わけは時間が解決してしまったかな?」

絹シルクよりも滑らかな頬を幾度となく撫でながら、<冥王>マダラの能力を羨ましく思う。

(五大国・第三位<冥王>マダラ……又の名を<心眼の王>。彼の力があれば、この子の思うことが手に取るようにわかるのだろうな……)

今まで誰かを羨んだことはない。
王ともなれば家臣へ意見を聞くことはあろうとも、力の面で右に出る者がいないため誰かを頼ることは許されない。
それを承知しているからこそ自身の持つ力が不足無いよう日々努め、魔術と剣術を極めたのが現在いまののキュリオなのだ。

しかし……各国の王が持つ"特別な能力"ともなれば諦めざるを得ない。そればかりは努力の問題ではなく習得不可だからだ。

そして<慈悲の王>である悠久の王が持つ力は"癒し"が主だが、攻撃魔法や剣術にも長けている。
"悠久"を語る上で、これらは重要な意味を持ち、やがてそれは……とある国と不仲になった事の発端へと辿りつく――。

「……いや、言葉を発することができぬ今さえ得難い貴重な時間だと感謝すべきだな……」

(何よりこの子を知ろうとする努力、私は嫌いではないらしい……)

目を閉じ、想いを伝えるようにそっと額を重ね合わせたキュリオ。
すると、小さな接地面からじんわりと広がる赤子の高めの体温に笑みがこぼれた。

(生命に満ちあふれる体のなんと熱いことか――)

「……?」

大人しく額を重ねたまま上目使いで不思議そうに見つめる彼女と、ようやく額を離したキュリオの瞳が間近で絡む。

「……こうして居られるのもあとどれくらいだろう……」

親が見つかれば直ぐにでも別れの時はやってくる。
深入りしないのが当然だが、すでにキュリオの心は特別な感情を抱き始めている。
しかし複雑に入り混じる感情が判断を狂わせぬよう、彼は彼の日常へと目を向ける必要があった。

「……名残惜しいからといってこのままではいけないね」

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