【第一章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を

甘い時間

湯殿からあがったキュリオは適当にバスローブを羽織り、アオイを柔らかい布で包む。頬を染めた彼女の顔にかかるのは柔らかな髪を伝い流れた湯だった。彼は新たな布を手に、顔と髪の水分を優しく拭き取ると、時折合間から覗く愛らしい瞳と視線が絡んだ。

「湯上りのお前は食べてしまいたいくらいに可愛い」

上気した頬と潤んだ眼差しに心奪われ、キュリオはたまらず彼女の頬に唇を押し当てる。しっとりと潤うアオイの素肌はいつにも増してあたたかく、彼女の存在をより一層強く感じることができた。

「きゃはっ」

唇の感触がくすぐったいのか、それとも彼女自身、愛されている実感があるのか嬉しそうな声が花びらのように舞った。そんなアオイの笑顔を見つめていると自然に顔がほころんでしまう。

「いつまでもこうして居たいが風邪をひいてしまったら大変だ」

キュリオは濡れた髪もそのままに、急いで彼女の体を拭きはじめる。まだ両足で立つことも叶わぬ赤子の体は強い腕に抱きかかえられ、一糸まとわぬ姿を彼の前にさらす。

「この可愛い体を見ていられるのもあと数年か……。あっという間にレディらしい体つきになってしまうのだろうね」

「……?」

深い空色の瞳に見つめられ、意図を理解できないアオイは疑問の色を浮べながらもわずかに哀愁漂った彼の変化に気づく。すると、己に回された王の指先をやんわり握りしめ、キュリオの悲しみを和らげるような偶然の仕草に笑みが漏れる。

「あぁ、すまない。お前の嫌がることはしたくないが……私が子離れできない可能性が高い」

キュリオは持て余した感情に抗うこともできず、いまはただ、目の前の行動に集中することを選んだ。侍女が用意した寝間着用のベビー服を手際よく着せると再び腕の中におさめる。今回は眠ることを優先させた服だけにフードはついておらず、作りもゆったりしていた。

「よし、これでいい。ふふっ、なにを着ていてもアオイは本当に可愛いな」

うっとりと目元をほころばせるキュリオと、すでに溺れるほどの愛を注がれたアオイ。彼はこの日から何をするにも彼女を優先するようになるが、本人には当然の行動であり、成長したアオイがそれをどう捉えるかは……そう遠くない未来の話である。

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