黒猫の香音(後編)
_西の空の『橙』が不気味に嗤う時


それにより『紅』はいずれ色を変え


秋の熟れた果実の様な綺麗な『朱』に変わりゆく_












_如月 早朝。



「やっぱり今日もそんなに客来なかったなー…」



あのヤクザ絡みの男が来てからと言うもの、『黒猫』の景気は以前に比べすっかり右肩下がりになっていた。



客が来なくてあまりにも暇なので、香音はまだ薄暗い空と外のにわかな銀世界を一目見ようと目の前の引き戸を開ける。



上を見上げるとその路地裏の隙間からは、もう夜が終わりを告げるかのように既に明るみを増した空を見る事が出来た。



しかしそこにはもう星など一つも無く、月も何処か遠くへ行ってしまっていた。





地上の雪もやがて溶け出し、その綺麗な世界に余計な色を付け始めている。




香音が溜息をつくと口から出てきた白いモノはやがて大きく形を変え、風と共に消えて行った。





「『あの時』の空はもう少し綺麗に見えた気がしたんだけどな…」



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