「ほんとに来たんだ? 何しに来たの?」

机の上にお気に入りの文房具を配置している私に、右隣の席から丈さんが言った。皮肉でもなく本気で驚いている様子だ。

冗談とは言え自分で指名したんでしょう?



私はあの窓辺の席。左側の窓の向こうに東京タワーがほど近く見える。スタッフ用よりも広々とした座席で、備え付けのPCとともにタブレットが支給されている。

立ち上がれば向こう側が見える低めのブースは、完全に人を孤立はさせないけれど、座れば集中できる快適さがある。

素晴らしい眺望に、素晴らしいオフィス。喜んでいい状況のはずだけど、それどころじゃない。

「すみません、ご存知かと思いますが、エンジニアのお仕事についてはまだほとんどわかりません。勉強させてもらおうと思いますので、よろしくお願いします」

またにらまれるかなという恐怖心を隠して精いっぱい笑顔であいさつしてみると、意外にもきれいな顔がふっとほぐれて微笑んだ。

あれ、意外と優しげ?

「とりあえずそこにいればいいよ。何も作れないよね? 仕事は何か麻里にもらって」

「でも丈さんとチームを組んで何かするようにって言われてきたのですが」

「別に必要ない。ケイティに似てるから置いときたいと思っただけ。言ったよね?」

いや、にこやかだけれど、完全な拒絶だ。線を引かれている、というのがわかった。

チームになったって何ができるんだって私だって思うけれど、置物扱いってさすがにひどくないですか。



『何しに来たの?』『何も作れないよね?』

悪気もなさそうに言われたその言葉で、エンジニアでなければ人でなし、というこの会社のヒエラルキーを再確認した。

何しに来たのか、私だってわかってないよ! でも別に押し掛けてませんよ、あなたに呼ばれてきたんですよ!