3ヶ月だけのママ~友達が妊娠した17才の夏~

「ごめんね。ごめんね、千奈美……アタシのせいだ。アタシがもっとしっかりしてたら……!」


 泣き叫ぶ啓子の姿に、私の胸が締め付けられる。
 なのに、私はまだ動けずにいた。
 こんな啓子を目の前にしても、どうしたらいいのかわからない。
 なんで私は、こんなに無力なんだろう。


「アタシがもっともっと、ちゃんと自分のことを話せていたら……」


 呆然とした表情で、啓子が千奈美を見上げている。
 それを見返す千奈美の表情上手く表す言葉を、私は知らない。
 今にも泣き出しそうな、今にも怒鳴り散らしそうな、なんとも言えない複雑な顔。

 私も今、どんな顔でこの光景を眺めているんだろう。

 茶化すようにしか、自分の過去について語らなかった啓子。
 そんな風に話すから、私もとっくに吹っ切れている過去なんだと思っていた。
 思ってしまっていた。
 今回のことがなかったら、ずっとそう勘違いしたままだったのかもしれない。

 中絶した過去は、今も啓子の体を焼き続けているのに……

 もしも啓子が今みたいに自分のことを話していたら、どうなっていたんだろう。
 想像力の乏しい私たちでも、もっとちゃんと啓子の気持ちをわかってあげられたのかな?


「そしたら千奈美だって……こんな辛い思いせずに済んだかもしれないのに!」


 同じ轍を踏む。
 その轍を残した啓子が、今もこんなに苦しんでいる。

 震える手が千奈美から離れ、啓子は泣き崩れてうずくまった。

 望まない妊娠が、どれだけ辛いことなのか。
 その末に選んだ中絶という選択が、どれだけの罪の意識を心に深く深く刻み込むか。

 それを知っていたら、千奈美は夏樹くんに毅然とした態度を取れたかもしれない。
 夏樹くんの方こそ、それを知ればもっとセックスや妊娠のことを、真剣に考えたかもしれない。

 「ごめんなさい」「ごめんなさい」という啓子の謝罪の言葉が、静かな部屋に染み渡る。
 隅々まで響くその声を、ぬいぐるみたちが聞いている。
 赤ちゃんみたいに愛らしい、啓子のコレクションたち。

 啓子は誰に謝っているんだろう。


「啓ちゃん……」


 啓子を抱きしめる俊輔くんの目は真っ赤だった。

 口元を押さえた千奈美が、その光景を目の当たりにして後ずさる。


「千奈美!」


 部屋を飛び出した千奈美に、私は腰を浮かす。

 一瞬のためらいに啓子を見ると、俊輔くんと目が合った。


『お願い』


 俊輔くんが声には出さず、口の形だけで私にそう伝える。
 きっと啓子も、そう思ってる。

 私は自分の鞄を引っつかんで、千奈美の後を追って啓子の部屋を飛び出していた。

 啓子は一人じゃない。
 でも、千奈美は一人だった。

 きっと夏樹くんは、千奈美に酷いことを言ったんだと思う。
 だから、せめて私だけでも。

 私は必死で千奈美の後を追った。
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