「朋絵! 今日、学校サボったでしょ!」


 禄英高校から帰宅した私を出迎えたのは、お母さんじゃなくてお姉ちゃんだった。
 旦那さんが出張の多い時期みたいで、またまた泊まりに来ている。

 無断欠席で、学校から家に連絡がいったのだろうか。
 想定の範囲内のこととはいえ、やっぱり心苦しかった。


「どーしたの、その顔!?」


 でも、怒り顔だったお姉ちゃんの表情が驚きに見開かれてから心配顔に変わる。

 夏樹をグーで殴った私は仕返しに思いっきり突き飛ばされて、満身創痍だった。
 殴り返されなかっただけマシかもしれないけど、転んだ拍子にぶつけたオデコが切れたりしている。
 そんな私に見むきをしないで、夏樹の野郎は帰って行った。
 あの野郎。


「……階段で、転んだ」

「もう、なにやってんのよ! 早くこっち来なさい」


 お姉ちゃんにうながされてテレビのついたリビングに行くと、ソファーに座らされる。


「ほらほら、腕出して」


 救急箱を用意したお姉ちゃんに腕を取られて、擦り傷だらけ蒼あざだらけになった腕を点検される。

 見つけた傷はどんな小さなものでも消毒して、バンソウコウが貼られた。
 腕がバンソウコウだらけで、ミイラみたいになる。


「まだちょっと出血してるね」


 一番酷かった額の傷が、消毒液を浸したガーゼで綺麗にぬぐわれる。
 新しいガーゼを貼り付けられて、テープで止められた。

 バンソウコウじゃカバー出来ないサイズの傷だったみたい。


「はい、これでお終い!」

「痛っ!」


 ガーゼを押さえるテープを貼って、ペチンとガーゼの上から私の傷を叩く。


「なにすんのよ……」

「学校サボった罰です」


 私が痛みで額を押さえても、救急箱を片付ける姉は素知らぬ顔。
 まあ、怪我のおかでその件については深く追求されずに済んだのはよかったかな。


「傷残ったりしないかな? 傷跡が残りにくいっていう、モイストヒーリングのバンソウコウでも買ってこようか?」

「そう思うなら、叩かないでよ」


 私がふてくされていると、電源の入っていたテレビがニュースを読み始めた。

 乳児の虐待死事件だった。


「…………」

「…………」


 私もお姉ちゃんも、思わず黙り込んで注目する。

 お姉ちゃんと同じぐらいの年の夫婦が捕まっていた。

 泣き止まない子供の声。
 近所の通報。
 不審を感じた小児科医。
 踏み込めなかった児童相談所。
 防げなかった悲劇――……


「お姉ちゃん、こういうニュース……どう思う?」


 私と同じく見入っていたお姉ちゃんをうかがう。


「えっと、殺すぐらいなら最初っから産むなーとか、児童相談所がしっかりしないからーとか、そういうこと?」


 どこかで聞いたことがあるような意見。


「まあ、そういうことかな?」