終業式の日、私は今日こそ病院に行くよう千奈美を説得しようと意気込んでいた。

 今この瞬間から夏休みだと、一学期最後のホームルームを終えて浮き足立つクラスメイトたち。


「ばいばい~い、朋絵。またメールするね」

「うん、またね~」


 さっさと学校とおさらばして夏を謳歌しようとクラスメイトたちが帰っていく。
 それを見送りながら、私は鞄に荷物を詰め込む千奈美に駆け寄った。

 啓子の姿を探したけど、いつの間にかいなくなっていた。
 このまま、啓子と千奈美はケンカしたままなになるんだろうか。
 不安に思うけど、今はそれより優先しなきゃならないことがある。


「千奈美!」


 帰る支度をする手を止めて千奈美が私を見る。
 続いて口を開いたのは、私じゃなくて千奈美の方だった。


「朋ちゃん……今日、ちょっと付き合って欲しいところがあるんだけど……いいかな?」

「いいけど……どこ行くの?」

「びょーいん」


 病院。
 それだけで、千奈美がどこの病院へ付き合って欲しいのかわかった。
 内科とかなら一人で行くだろうし、私に付き合ってもらいたいほど行きにくい病院。

 私が説得することなく、千奈美は一人で考えて一人で決意していた。

 お腹の中にいる赤ちゃんのことを、きちんと見てもらおうって、産婦人科に行こうって決意したんだ。


「じゃあ、いったん帰って着替えてくる」

「うん、ありがとう……」


 今日は午前中で学校も終わりだし、さすがに制服のまま産婦人科に行くのはどうかと思う。
 だから、昼食を食べて着替えてから待ち合わせをすることにした。

 普通に遊ぶだけなら一緒にファーストフードにでも行くんだけど、今日は一緒にごはんたべてもきっとおいしくない。
 千奈美も、産婦人科に行くことで緊張してるだろうしね。

 着替えてごはんを食べた私は、遊ぶ約束があると行ってすぐに家を出る。
 そして、待ち合わせの駅へ。

 電車を乗りついでついた待ち合わせ場所に、千奈美はまだ来てなかった。
 私は柱の側に立って、携帯電話を開く。

 今日、千奈美が産婦人科へ行くことを啓子は知らないと思う。
 千奈美は啓子とまったく口をきかなくなってしまったし、私も勝手に教えていいものか悩んでるから。

 口をきかなくなっても、啓子はきっと千奈美のことを心配してるよね。
 心配してたからこそ、こういう風になっちゃったんだし。


「ごめん、待った?」


 啓子にメールを送るか悩んでいると、千奈美が改札から駆けてきた。


「ううん、今来たとこ」


 お決まりのやりとりをして、私はメールを送ることなく携帯電話を仕舞う。

 内診もあるからかな。
 シャワーを浴びてきたんだろう。
 千奈美からは石けんの香りがした。

 千奈美がインターネットで見つけたという産婦人科へ、千奈美の道案内アプリを見ながら行く。

 正直、病院へいくまでどんな話をして会話をつなげばいいかわからなかったけど、迷わないようにあれこれ言っているうちに病院へ着いてしまった。

 住宅地の近くにある、こじんまりとした個人病院。


「い、行こうか」


 千奈美の手を握り締めて、病院の扉を開ける。