3ヶ月だけのママ~友達が妊娠した17才の夏~

「…………千奈美のこと、怒ってる?」


 あんな酷いことを言った千奈美と仲直りして欲しいなんて、身勝手かもしれない。
 酷いことを言った千奈美の方ばかりの味方みたいで、啓子は私のことまで嫌いになっちゃうのかも。
 そしたら、どうしよう。

 私がおそるおそる聞くと、啓子は困ったように髪をすく。


「怒ってるっていうか……悲しいというか……」


 困ったように眉を歪めて、頬杖をついた。


「ホッとしたのかも」

「ホッと?」


 啓子の口から出たのは、不思議な答え。


「うん、ホッと。だってさー、アタシが中絶してからみんな優しいんだよ。おとーさんも、おかーさんも、俊輔だって」


 頬杖をついたまま、くるくると指に髪を絡めてもてあそぶ。


「本当にかわいそうなのはアタシじゃなくって、赤ちゃんなのに……みんな、アタシに優しいの。だから、千奈美に傷つけられてホッとした」


 指にからまる髪の毛を見ているようで、啓子の目はなにも見ていないようにも思える。
 いろいろ、思い出しているのかもしれない。


「アタシ、ずっと誰かに罵って欲しかったんだと思う。この人殺しって、罰して欲しかった。変だよね~、アタシ、そんなドMじゃないのに~」


 冗談めかして笑う姿が痛ましかった。
 そうやって笑いながら何度、自分の傷口にふれてきたんだろう。


「だから、朋絵もアタシのこと嫌いになっていーよ」


 なんて悲しい笑顔なんだろう。
 なんでそんなことを私に言うんだろう。

 軽蔑してもいいよって言った啓子に、私は軽蔑しないってはっきり言った。
 なのに、今度は嫌えって言う。

 酷いよ、啓子は。

 私の気持ちをなんにもわかってない。

 気持ちが届かない。
 啓子に私の思いが届かない。

 それがこんなにも悲しいことだなんて……涙があふれてくる。


「嫌いになんて、ならないよ」


 そう言っても、啓子には届かないの?
 悲しい笑顔のまま、私を見ている。


「朋絵も、優しいんだね」


 そんな言葉で、私をくくらないで。


「違う、そんなことないよ! 優しいからなんかじゃない、私はただ、啓子が好きなだけなの! 啓子に会えて、本当によかったって思ってるの!」


 まるで、愛の告白みたい。

 机に手をついて中腰になって、啓子に届くように必死で叫んだ。

 啓子が中絶してるとか、そんなの関係ない。
 だって、啓子は中絶してなきゃ高校になんか来れなかっただろうし、高校に進学しなきゃ私たちは会えなかった。

 啓子の選択は、決して正しいことじゃないのかもしれない。
 死んでしまった赤ちゃんは、啓子や俊輔くんを怨んでいるかもしれない。
 それはとっても重い罪で、啓子が罰して欲しいって思うほどのことかもしれない。

 それでも、私は啓子に会いたかった。
 会えてよかったと、本当に思ってる。
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