小倉ひとつ。

16.初勤務と誕生日

社会人初出勤の日、前日から緊張しながら制服やハンカチにアイロンをかけたり、細々した準備をしたりして早く寝て、緊張で早く起きた。

朝ごはんを食べて髪を丁寧に丁寧に結んで、諸々を済ませて時計を見る。


あれ。なんだか随分早い。

いつもより三十分は早く準備が終わってしまったので、忘れものや不足がないか三回確認し直したけれど、やっぱり準備はばっちり終わっている。……あれ。


「あらかおり、今日は早いのね」


玄関でおろおろしていたら、母がひょっこり顔を出した。


「うん。なんだか緊張しちゃって」

「初日だもの、少しくらい早くても大目に見てもらえるわよ。うちにいて遅れたらことだし、のんびり歩いて行ったらいいんじゃない?」

「うん、そう、だよね。じゃあ、行ってきます」

「はあい、行ってらっしゃい。気をつけてね」

「はーい」


確かに遅れるよりはいいかなあと、ひとまず家を出た。


のんびりのんびり歩いていたのだけれど、やっぱり出発が早すぎたらしい。

十五分前に近くまで来てしまった。うーん、どうしよう。


稲やさんはオフィス街の近くにある。


オフィス街だから、もともとそんなにお店がない。

あっても飲食店ばかりで、十五分じゃ何もできないうえにお腹はすいていない。朝ごはんはばっちり食べてきてしまった。


ええとええと、そうだ、コンビニに寄ろうかな。


そんなに食べたいわけでもなかったけれど、小さいおやつをひとつ買って時間を潰して、早すぎないように出勤する。


「おはようございます」


聞き慣れた釣鐘の音が、うるさい心音を少し鎮めてくれた。
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