季節は梅雨を終え、もうすぐ7月になろうとしている頃。

地上30階建ての建物を外から見上げると、ベージュとブラウンのモダンな配色の外壁を眩しい日差しが照らした。



『ガーデンタワー東京』、入り口頭上に書かれたその名に気持ちを引き締め、一歩歩き出す。



「立花社長、おはようございます」

「おはよう。今日もよろしく頼むな」



受付スタッフである女性社員へ声をかけると、天井の白いライトが反射する床をスタスタと歩いていく。



『立花社長』『立花オーナー』、その呼び名にももう慣れた。

代わりにどんどんと遠くなっていく『天才ピアニスト』という呼び名に、心が痛むことすらもなくなって。