柔らかな桃色が咲き乱れる桜の季節は大好きだ。強く吹く春一番が髪の毛をさらって乱したとしても、桃色が散る様は圧巻だから。
 けれど、それよりも少し前の甘い季節を私は嫌っている。甘いはずの恋が、とても苦いものに変わってしまった思い出を抱えているからだ。


 初々しい高校生の頃。お菓子作りが得意だった私は、それまでも親友の誕生日や家族の誕生日にはケーキやクッキーを焼いて贈っていた。
 親友には美味しいと喜んでもらえていたし、家族にもケーキ屋さんで買わなくても、私がいれば必要ないとまで言ってもらえるくらいだった。だから、私自身もお菓子作りには自信があったし、プライドも多少は持っていた。

 晴れやかな気持ちで入学した高校で、私は素敵な人を見つけた。スポーツが得意で笑顔が素敵で、時々のぞく片方だけある八重歯がとてもキュートな彼だった。
 夏を超え秋になり、寒い冬を超えた頃、見つめ続けるだけの毎日を変えたくて告白すると決めた。得意のお菓子作りを生かして、バレンタインに手作りチョコを渡そうと張り切ったんだ。
出来栄えは上々だった。母にも、売り物になる。と太鼓判を押されたハート型のガトーショコラを綺麗にラッピングして、私はその日高鳴る緊張を胸に彼を呼び出した。

 しかし、結果は酷いものだった。

「えっと。これって手作りだよね?」

 含みを持った苦笑いの表情に違和感を覚えたものの、緊張から深く考えることもできず、ただただ照くささにコクリと一つ頷いた。すると、そんな私へ片思いの彼は言ったんだ。

「ごめん、君のこと知らないし。手作りとか、無理。気持ち悪くて、こんなの食えない」

 気持ち悪い――――。

 脳内が真っ白になった。体は一瞬にして灰になり、遠く異国の地へ飛んで行ってしまうんじゃないかというほどの衝撃だった。
 ふられたこともさることながら、唯一得意としていたお菓子作りを“気持ち悪い”と一蹴されてしまった。

 この日から、私はピタリとお菓子作りというものをやめた。

 お菓子? なにそれ。
 バレンタイン? 無駄無駄。
 だって、気持ち悪いって言われるもの。



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