薄暗い空間に、ふいに鳴り響いた着信音。
机の上でぼんやりと光っているスマートフォンを見つけて、ためらいながらも手を伸ばした──時だった。
「ごめん、それおれの」
気配なんてまるでない。
静かで低くて……冷たい、背中を突き抜けてくるようなその声に身体が固まった。
うっかりして車に轢かれそうになった時、みたいに、胸の奥がヒヤッとして一瞬目がくらむ。
「あぶな。思い出してよかった」
あたしが伸ばしかけた手の先にある"ソレ"を掴んだ彼は、安心したように短く息を吐いたあと、こちらに明るい笑顔を向けた。
「相沢さん、まだ残ってたんだ」
声色が変わった……というよりは
いつもの声に、“ 戻った ” 。
穏やかで優しい響き。
今あたしの目に映っているのは間違いなく、
──クラスメイトの本多七瀬くんだ。