副社長と愛され同居はじめます

熱帯魚を捕獲したい




結局成瀬さんは何をしに来たのやら。
私に副業を辞めろとも、当然ながらテーブルに札束を積むこともせず、帰っていった。


ただ、帰り際に次の出勤日を聞かれ、翌日の土曜だと答えると午後一時に迎えに行くと言われた。


あれだ。
金持ちって、相手の都合とか考えないのかな。
会社は休みだけれど夕方から店に出るから、それまではゆっくり寝ようと思っていたのに。


あんな大きな会社を自分の手で動かしてる人だもんな、誰でも言うことを聞いて当たり前だと思っているのかもしれない。
だが、私に副社長に逆らうなんて真似ができるわけもなく、なぜに私の家を知っているのかなんて愚問も口にすることもできず。


土曜、青空と遅咲きの桜の花びらが舞う、美しい春の午後。
私の古いアパート前に、運転手付きの黒いメルセデスベンツが停まった。


わー……こんなとこでこんな車、滅多にお目にかかれないよ。



「何してる。早く乗れ」



運転手さんが降りて来て開けてくれた後部のドア。
竦んでいると、奥から顔を出したのは昨夜と同じく麗しい顔立ちの、副社長。


こんな……古びたデニムパンツと〇マムラでかった安いカットソーで、こんな車に乗りたくありません。




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