ハチミツ味の君の嘘
プロローグ
少し冷えた秋の風が鐘の音をはこんでくる。

それがなんだか悔しくて、どうしようもなく悲しくて。
誤魔化すようにポケットから煙草を取り出した。

ライターで火をつけようとしたけれど
"喫煙禁止"と書かれたボードを見て手が止まる。


「そういうの気づかない男はモテないよ。」


クスリと笑ってるナオにイラつくこともできず、自分を馬鹿にするように息を吐き出して笑う。


「だな。」


予想外の答えだったのか、加瀬が目を丸くした。
だけど察したのかのように大きな目を細めて微笑む。



「だいぶダメージ受けてんじゃん。」

「うるせえ。」

「好きだったんでしょ?認めたらどう?」

「………」

「奪ってきちゃえばいいのに。ねえナオ。」

「ほんと!俺だったら誓いを立ててるときに連れ去る!」

「…ドラマじゃねえんだから。」



それができたらどんなに楽か。

できることなら俺だって…、手放したくないんだ。



こぼれ落ちたため息。





何をすることもできず、
ただ君と過ごした日々を思い出す。



胸が抉られるような

不器用すぎる俺と、彼女との日々を。
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