オプションは偽装交際！～大キライ同期とラブ・トラベル！？～

その途端、私は目を奪われた。

ひときわ大きな桜の木の下に、男の人が立っていたから。

「古都の妖が悪戯に出現させたのか」…なんて思わずファンタジーめいちゃうような、いい男が。


黒髪、細身のパンツスタイルにジャケットというシンプルな恰好ながら、高い背丈と整った横顔には花街通りのやわらかな風情をもかき消すような、凛とした存在感があった。

一瞥するだけではすまない、思わず目を奪われるようないい男。


…あれ…？


彼のこと、知っている気がする…。


ラフなジャケットを着ていてもわかる、がっしりとした肩と腕。
ぼうとした街灯の下でもくっきりと浮かぶ高い鼻梁と涼しげな顎のライン…。


不意に、男の人がこちらに顔を向けた。そして目を見開いた。

その動作に、私は自分を真似されているのかと思った。

だって、私だって目を見開いたから。


やっぱり、ファンタジーだわ。


いやいやこの場合、ＳＦといったほうがいいのかしら。瞬間移動とかそういうの。

どうして今ここでこの時間に、この男がいてくれちゃうのよ…。


この男は、お別れ寸前の彼氏の次に会いたくないヤツだ。


偶然か必然か…突然現れたのだ。
同期でライバルの大っ嫌いな男。

向居柊介(むかいしゅうすけ)が、私の目の前に。