私の視線に気づいたのか、向居が振り向き、微笑んだ。
私は思わず目をそらす。


「もう猫ちゃんはおいかけなくていいのか?」

「…猫はどこかに行っちゃったわ」

「そうか。朝飯でも食いに行ったのかな」

「ん…」


軽く微笑み返すだけで、私は向居と目を合わせられなかった。
朝陽のぬくもりを含みはじめた風が肌を撫でるのを、ひどくやさしく感じる。


「疲れたか?」

「あ…、ん、ちょっとね」


本当は全然疲れてなんかない。
でも、すっかり落ちてしまった気持ちをやりすごせなくて、そう答えるしかなかった。

向居はスマホをしまうと私のそばに来て、少し労わるような口調で続けた。


「この近くに朝から開いているカフェがあるの、知っているか?」

「え…どこ? …知らない」

「旅館に帰る前に、すこし休んでいかないか」


そう言って向居はやさしく微笑んだ。