御曹司の蜜愛は溺れるほど甘い~どうしても、恋だと知りたくない。~
バッカスの会

「我々の自由と無秩序に乾杯!」

始の朗らかな第一声に会わせて、

「かんぱーい!」
「乾杯!」

と、口々に声が上がり、グラスを軽く触れ合わせる音が響く。


バッカスの会はホテルのスイートルームで開催された。
元々、始が大学生の頃に所属していた山岳部の延長で作ったサークルが起源で、その土地のうまい食べ物や酒を飲む、ただそれだけの会らしい。

大学生の延長と言われれば確かにそうだが、そのメンバーはかなり豪華だ。

今回は参加者は十人程度だが、早穂子も名前を知っているような大企業の御曹司や令嬢がひしめきあっているのである。

「始さん、お久しぶりです」

最初に声をかけてきたのは、長身の黒髪のベリーショートの男性だった。

「シロ、元気そうだね」
「ええ。始さんには向こうではお世話になりました」

にっこりと微笑む彼は、そのまま始の隣りに立っている早穂子にもその笑顔を向ける。

「初めまして。槇白臣(まきあきおみ)と申します」
「こちらこそ。蓮杖早穂子といいます」

軽く会釈すると同時に、白臣が早穂子の足元に目を落とす。

「ありがとうございます」
「えっ?」

驚いて首をかしげると、始が早穂子の履いているベージュのパンブスを指さした。

「その靴、カノーロ?」
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