気づいてくれる?
3
会計を済ませ、店をでると、来た道を戻る。

足取りは重い。
心も重い。

松浦さんと再会し、
もしかして、これって運命?
なんてはしゃいだ数分前の自分を呪いたい気分だ。

……今までだってこういう事はあったじゃないか。

街中、スーパーとかで患者さんを見かけることがよくある。
私は、○○さんだ、と思うけど、向こうは全く見向きもしない。
さみしいな、と思う反面、気が楽だ、と思う。
気づかれたら、きっと来院の時にいろいろ言われることもあるだろう。
だからかえって気づかれないほうがいいのだ。

なのに…

なんで、今日は寂しい、としか思わないのだろう。
寂しい、いや、悲しかった。
松浦さんに気づいて欲しかった。
声をかけて欲しかった。

恋に発展したかった訳じゃない。
……いや。ちょっと期待はしたけれど。

松浦さんに少しでも私を覚えていて欲しかったのだ。

たった15分程の治療時間を過ごしただけで、
彼の人生の中に入ろうなんて、図々しいにも程がある。

「はあっ~」

多分、今まで生きてきて一番大きく深いため息をついた気がする。

恋愛から遠ざかって、恋愛の仕方もすっかり忘れた結果だ。

「こじらせてしまいましたなぁ。」

今日何度めかの独り言の後ろに足音が聞こえた。


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